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【特別展】ハニワと土偶の近代@東京国立近代美術館

2024年11月1日

今、東博でアツい展示、【特別展「はにわ」】ではなく、国立近代美術館で催されているこちらハニワと土偶の近代。
まず自分の興味は東博の「はにわ」に行こう。という所からだったのだが、それに合わせているかのような展示があるということで本展示を知り、初めての国立近代美術館の訪問と相成りました。

東京国立近代美術館 竹橋駅すぐ

まず、東博の埴輪の実物。というところとは対象的に埴輪や土偶というものがいかに近代から現代に掛けて日本人へ浸透していく文化の動態を丁寧に見せる展示であった。

近代、明治期の文明開化の前段の江戸時代から“埴輪や土偶”といったものは、存在こそは知られてはいたが、考古学という学問が日本にまだ渡ってきておらず、またそれらの制作当初は書物による記録などもなく、その埴輪や土偶といったものの出自を日本人が伺い知れるまで明治期の考古学の伝来を待たねばならない。といった所から展示がスタートする。

とはいえ、存在を知られているという事はその時代ごとの蒐集家の目に留まるのも摂理。好古家による埴輪や土偶の蒐集というのは行われていたということは確かなようだ。

蓑虫山人 「陸奥全国古陶之図」
好古から考古の時代へと移り変わるまさに境目の時代の作品
この蓑虫山人は土偶のスケッチも遺している

江戸末期から明治の考古学の黎明の移り変わりで考古的資料かつ、好古の対象として集められたものが並ぶのではなく、その蒐集家が書き記した美術を持ってくるあたり、これが近代美術館。といつもと毛色の違う展示に衝撃を受ける。果たして美術と考古の差とはなんなのであろうか。

好古家によるスケッチ。
私見だけどこのスケッチの出来は考古的資料でしょう!?

次は考古学が日本に広まった後、そのキャラクターとしての埴輪と土偶に求められた姿があった。明治期の文明開化と共に訪れた、欧米列強と肩を並べるために日本人に求められたグローバルの中での「日本人らしさ」というところに埴輪と土偶を当てはめていったということが当時の資料から伺い知れる。
大陸からの影響を受ける前から日本列島に住んでいた民族の姿として、中国等から伝来した文化の真似ではなく、純粋な日本人の姿として縄文弥生古墳時代の埴輪と土偶が用いられていくようになる。

万国博覧会の日本ブースの展示では古墳時代を焦点として日本人の姿であるとしたようだ

さらにいえば日清、日露、日中と対外戦争を経験していく中で戦争経済による国内の土地の開発なども進み、それに合わせて埴輪などが出土することも少なくなかったようだ。
結果として対外戦争向けのナショナリズムや国威発揚と合わせて使うには非常に使いやすい、訴求しやすいものとして埴輪、土偶の姿は民衆にまで流布していくようになる。
それが当時の美術家、作家の作品のみならず、記念品や刊行物などからも伺い知れる。
更に大きな出来事として、明治天皇の大喪の礼に併せて陵墓を作る際にも埴輪を制作したことも影響としてはあるであろう。
また美術ではモダニズムの流行と合わせても埴輪のシンプルな造形と穴が空いただけの目、口という究極にシンプルな形状、その上理想的な日本人的とされるモノは親和性が高く絵の題材としても多くの関心を寄せたようである。

写真の題材としても埴輪は活躍

そして戦後、ナショナリズムに利用されていた埴輪、土偶などはGHQの統治により皇国主義的なものとして排除され、代わって科学的な考古学的な対象へと移っていく。
図らずとも、戦後の復興に併せて戦前同様に、更にはそれ以上の活力で各地の開発が進んでいく中で史跡は発見され、人々の意識の中に溶け込んでいった。
古代をよく示した遺跡として有名な登呂遺跡も整備事業が始まったのが1951年ということもあり、まさに戦後復興と併せての歩みであった。

GHQにより、日本人の建国神話などが禁止される中でも、日本人のアイデンティティを示すモチーフとして埴輪が使われることも合ったようだ。

人物の持つ埴輪は犬の埴輪
表情がかわいい。東博で実物をみたいな~。と思ったりもした。

高度経済成長期では岡本太郎の縄文への追求などもあり、一大埴輪土偶ブームとなった時期も有ったらしい。
それに併せて人々の娯楽の中にも古代をモチーフとしたものが入り込んでくる。

挂甲の武人モチーフの代表作「大魔神」

この娯楽への進出以降は縄文は「遮光器土偶か火焔型土器」、埴輪は「挂甲の武人か踊る人々」か。といった固定的なイメージが流布していく。
自分も言われてみれば縄文土器、あるいは埴輪に対しては上記のような固定観念が有ったかのように思う。

このような時代を経て、日本人の文化、あるいは共通の認識として埴輪、土偶は成り立っているのである。という感じで近代美術を並べて展示がおわる。

近代、現代作家における埴輪、土偶のリスペクト

まさに題のような「はにどぐ(埴輪と土偶)」が近代から現代に掛けて日本人がどのような観念をもって接してきたかを文化、美術方面からアプローチする面白い展示であった。
音声ガイドも80年代末からNHKで放映されていた「おーい はに丸」から田中真弓さんが担当され、非常に面白く聞けた。

現代におけるはにどぐが登場するサブカルチャー作品の年表は中々見もの。
こんなところにまで!?と思えるほどの調査っぷりでびっくりした。
また、東博の前身である帝室博物館からの遷移を示す博物館ニュースの記念すべき第一号の展示など博物館好きであれば食いつく資料もたくさん。
正直東博の「はにわ展」の前哨戦だろうと思い、舐めて掛かったら完全に展示にすべて意識を持ってかれました。美術史パワーすごい。

またこの展示図録もすごい、完全にはにどぐ美術史としての完成しているのではにどぐファンなら必携の一品。

お土産で思わず購入したはにわサブレを食べながら締めたいと思います。

以上。

はにわ出土の地、埼玉県の誇る十万石まんじゅうのふくさや製造!