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Vol.7/過保護と領分

4月の半ば。母とともにN病院へ向かう。あまりに久しぶりの来院で、駅を降りてから、すぐにYahoo! Mapのお世話になる。

Google Mapは苦手だ。マップ自体がぐるぐる回る仕様が、どうにも私には合わない。どこを向いていて、どっちに向かって進んでいけばいいのか、まったくわからないのである。

その点、Yahoo! Mapはマップが固定されていて、自分の向いている方向だけがくるくる回るから、どっちを向いているのかが分かりやすい。

受診に指定された時間は、9時30分~11時30分と時間帯に随分と幅があった。念のため前日にN病院に確認を取っておいたので、その時間内であればいつ来院してもいいということだった。

最寄り駅に着いたのは、9時過ぎ。ここから歩いて10分もかからない距離にある。Yahoo! Mapの指示に従って歩いていく。途中、なだらかな上り坂が続く。

隣で歩くマスク姿の母から、荒い呼吸音が聞こえてくる。少し歩調を緩める。それでもやはり息が苦しそうだ。マスクをしているからというだけではない。病気のせいで、肺機能が落ちているんだろう。

N病院は、坂を上がりきったところにある。徐々にN病院のマークが見えてきた。大きな白い建物がでんと構えたロータリーにたどり着く。病院の正面玄関だ。

アルコール消毒液で手を消毒し、体温を測定して受付へ向かう。まだ9時を10分ほど過ぎたところだというのに、受付前にはすでに20人近い人が待っていた。ずらりと並んだ椅子に空席を見つけ、番号札を取ってそこに腰掛けた。

目の前で、事務員がてきぱきと患者対応を済ませていく。機械的だな、と感じつつも、見慣れたルーティーンワークに感心もしていた。それを眺めているうちに、いよいよ母の番が来た。

前の病院から預かってきた予約票と紹介状とCD-Rを提出する。それと引き換えに、診療科への指示書を受け取る。なるべく母にすべて対応させようとしたが、ついて行ったせいもあるのか、母の待ち姿勢が少し気になった。もしかして、いまの私は母に対して過保護になっているのではないだろうか。

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2,546字
胸の奥に今もまだ残る母への確執。その母の肺がん発覚。治療内容を含めて、それからのことを赤裸々に。

肺がんになった母の闘病記兼忘備録

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