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【徒然草考:第四十ハ段】食事のマナー
徒然草を読み解きつつ人生のたしなみを学びなおす「徒然草考」。
第四十八段をお届けします。
第四十八段:宮中の食事のお作法
原文
※古文体が苦手な方は読み飛ばして現代語訳におすすみください。
光親卿、院の最勝講奉行してさぶらひけるを、御前へ召されて、供御を出だされて食はせられけり。さて、食ひ散らしたる衝重を御簾の中へさし入いれて、罷り出でにけり。女房、「あな汚な。誰にとれとてか」など申し合はれければ、「有職の振舞、やんごとなき事なり」と、返々感ぜさせ給ひけるとぞ。
光親卿
藤原光親。
承久の乱で後鳥羽上皇の命令により幕府征伐の案文を書いた。
承久の乱後に斬殺された。
学才に富み、後鳥羽上皇に可愛がられ、歌の名手であった。最勝講
東大寺、興福寺、延暦寺、園城寺の四大寺からトップクラスの僧侶を呼び寄せて、宮中で天下太平を祈る仏事。奉行
天皇の命を受けて、公事を執行する者のこと。供御
上皇、天皇、皇后、皇太子などが食すお膳。衝重
檜の白木で四角く作ったお盆に、檜のへぎ板を折り曲げて穴を開けて作った台を付けたもの。有職
公家の儀式等の知識にくわしい者。
現代語訳
※著者の個人的な解釈による現代語訳です。
藤原光親が天下太平を祈る法要の責任者を務めていたときのことです。
彼は上皇と食事をした後、食べ終わったお膳を御簾の中に置いたまま退場しました。
それを見ていた宮廷の女性たちが、「なんて汚らしい。誰が片付けるの?」と目を細め合っていると、上皇は、「これは昔からの正しいお作法であり、とても立派なことなのですよ。宮中のマナーをちゃんと心得ており、誠に天晴れなことです」とおっしゃいました。
時代とともに変化する食事のマナーとお作法
徒然草の第四十八段では、宮中の食事のお作法を取り上げて紹介しています。
上皇やその側近が食事をして、自らお膳を片付ける方が違和感を感じるのは私だけでしょうか。
「そりゃ、お膳はそのままにしておくでしょ」という感じがします。
さて、食事のマナーやお作法は、これまで時代や社会情勢によって大きく変化してきました。
昔は絶対とされていたことが、今では緩やかになったり、逆に新しいマナーが生まれたりしています。
格式と伝統が重んじられた時代
昔の食事のマナーは、身分や立場によって厳格なルールがありました。
特に貴族や武士の間では、食事は単なる栄養補給ではなく、礼儀作法を身につける場であり、社会的地位を示すものでした。
箸の使い方
箸を立てたり、食器を鳴らしたりすることは厳禁とされていました。
これは、箸が墓標を立てているように見えたり、食器を鳴らす音が不吉とされたりするためですね。座り方
正座をして食事をすることが基本で、姿勢を正して食べることに重きが置かれていました。食事の順番
食事の順番も決まっており、汁物を最後に飲むなど、決まったお作法がありました。
多様化と簡素化の時代
現代の食事のマナーは、昔に比べて格段に自由になりました。
多様な食文化が入り込み、個人の価値観が尊重されるようになったためです。
カジュアル化
フォーマルな場を除き、服装や言葉遣いもカジュアルになり、食事のマナーもそれに合わせて緩やかになりました。多様な食事スタイル
和食だけでなく、洋食、中華、エスニック料理など、様々な料理が登場し、それぞれの食事スタイルに合わせたマナーが求められるようになりました。個人の尊重
昔は考えられなかったような食べ方も許容されるようになり、個人の好みやスタイルを尊重する傾向が強まっています。
食事マナーに変化をもたらす要因
食事のマナーが変化する要因としては、以下のようなものが挙げられます。
グローバル化
外国の食文化が日本に入ってくることで、多様な食事スタイルやマナーが生まれました。ライフスタイルの変化
多様性の尊重や効率化など、ライフスタイルの変化によって、食事の時間が短縮され、マナーも簡素化される傾向にあります。価値観の変化
個人の自由や多様性を重んじる価値観が広がり、昔のような厳格なマナーにとらわれなくなった人も増えています。
食事のマナーのこれから
今後の食事のマナーは、さらに多様化し、個人に合わせたスタイルが求められるようになるのではないでしょうか。
アレルギーや宗教への配慮
食品アレルギーや宗教上の理由から、特定の食材を食べられない人が増えています。
このような人への配慮が、マナーとして求められるようになるでしょう。サステナビリティ
環境問題への関心の高まりとともに、サステナブルな食生活が求められるようになります。
食器や食材選びとともに、それに合わせたマナーが生まれてくる可能性があります。テクノロジー
AIやロボットなどのテクノロジーを活用した食事サービスが登場し、新たなマナーが生まれるかもしれません。
食事のマナーは、時代とともにダイナミックに変化し続けています。
昔のマナーをすべて守らなければならないわけではなく、現代の社会にマッチしたマナーで柔軟に対処できる時代にはなっているように思います。
ただし、最低限の基本マナーはしっかり押さえて、どんな場でも失礼のないように振る舞うことが大切ですね。
食事のマナーのこぼれ話
昔、勤め人をしていた頃、大切なお客様を会食でご接待する機会がありました。
ビジネスの会食は、ただお行儀よく食べていればいいってもんじゃないんですよね。
お相手との関係性や間合いを配慮しつつ、会話をさりげなくリードしつつ、配膳される料理をお相手と同じペースでお料理をいただいていく。
これって、それなりに練習が必要なんですね。
傾向として、一般的に偉いと言われる方々は食べるペースが速い。
たとえば、30分間のランチミーティングで、10分間程で大きい幕の内弁当を残さず食べ切るペース。
しかも、いろいろな話を繰り広げながら、あっという間にたいらげてしまう。
さらに、お酒を付ければ、その注文やお酌の段どりなどもあります。
ちなみに、私は次のような粗相をしでかしました。
食べるペースや会話をさばく術はそれなりにマスターしていたのですが、素が「おっちょこちょい」なんですよね。
ちょっと気を抜いた際に、鯛のお刺身が箸からこぼれ落ちてお醤油の入った小皿にダイブ。
テーブルにお醤油が飛び散り、それをお手拭きで拭こうとして、お酒の入った徳利をひっくり返す。
赤っ恥。
修羅場・・・。
その後は生きた心地がしませんでした。
ほろ苦い思い出でございます。
藤原光親卿は、絶対、こんな粗相はしないんだろうなぁ。
終わりに
お付き合いいただきありがとうございました。
徒然草を題材に、あれこれ想いをめぐらすことは、ことのほかおもしろいですね。
徒然草を読んであれこれ考えてみたいという方におすすめの書籍をご紹介させていただきます。
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最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
こちらの情報がお役に立ちましたらうれしいです。
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