ねこは挫折した。 行きつけの魚屋からおやつをもらえなくなったからではない。 お気に入りの昼寝場を他の猫に奪われたからでも、ほかほかのスープをなめて舌を火傷したからでもない。 ねこには共に暮らしていた人間がいて、今はいなくなってしまった。詳しい理由はねこにはわからない。 道端にできた水溜まりをのぞき込んで水面に映る自分の顔を眺める。いつもまるっとした美しい曲線を描く額に、今日はシワが寄っていた。 「にゃ〜ん」 右の前足をひとなめしてごしごしと顔を洗った。 額のシワはまだ伸び
「別れよう」 かれぴがあたしにそう告げた。 突然の告白にあたしの頭は理解が追い付かなかった。 死刑判決を言い渡された罪人のように、あたしは呆然とかれぴを見つめた。 深刻な眼差しであたしをじっと見つめるかれぴの様子を見るうちに、止まっていた思考が徐々に動き出した。 冗談じゃない、ということはかれぴの顔を見てわかった。 でも、あたしはそれを認めたくはなかった。あたしはまだかれぴのことがダイスキだったから。 「な、なんで?理由は?」 現実から目をそらすように、あたし