とあるねこのなき声

ねこは挫折した。

行きつけの魚屋からおやつをもらえなくなったからではない。

お気に入りの昼寝場を他の猫に奪われたからでも、ほかほかのスープをなめて舌を火傷したからでもない。
ねこには共に暮らしていた人間がいて、今はいなくなってしまった。詳しい理由はねこにはわからない。
道端にできた水溜まりをのぞき込んで水面に映る自分の顔を眺める。いつもまるっとした美しい曲線を描く額に、今日はシワが寄っていた。
「にゃ〜ん」
右の前足をひとなめしてごしごしと顔を洗った。
額のシワはまだ伸びない。

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