マテ貝を焼く母
一番最初に精神病院に入院したとき、父と母は私が不在の間、地魚の美味しい店をはしごした、と言った。どんぶり一面にウニのたっぷりのったウニ丼も美味しかった、とご機嫌だった。
私に初めての外泊許可がおり、家に帰宅すると、母は上機嫌で私に、
「食べてほしいものがあるのよ〜」
と言って生きた特大のマテ貝を見せた。
私はびっくりした。
マテ貝を知らない、食べたことの無い方は、先ずその姿形にびっくりすると思う。
マテ貝は男性の陰茎にそっくりの貝だ。
「何これ!男性の陰部みたいじゃない!やめてよ!」
と私は言った。
「そう?焼くと美味しいのよ〜」
母親は、卓上コンロと焼き網を用意して、生きたマテ貝を私の目の前で焼き始めた。
貝は生きていた。
熱い炎に晒されたマテ貝は苦しみながら動き、縮んでいった。
私はまるで拷問のようだ、と思い、直視出来なかった。
「甘みがあって美味しいのよ〜」
と母はたまらなく上機嫌のままだった。
母親は私に食べることを強制した。
味などわかるはずがない。
そんなことより、あまりの残虐さに言葉を失っていた。
焼くのを見るだけでも、言語を絶する苦痛だった。
精神的にまいっている娘に、平気でそんなものを食べさせる母親の神経が信じられなかった。
今でもその母親の上機嫌ぶりを思い出すとゾッとする。