「TOHO MUSICAL LAB.」配信感想 『わたしを、褒めて』『DESK』
「TOHO MUSICAL LAB.」の2023年11月23日(木・祝)16:00公演の配信を観た感想、備忘録です。
はじめに
完全新作の短編ミュージカルを2本立てで同時上演という珍しい形式かつ公演期間は2日間ということで、かなり実験的な企画なんだろうな、どんな感じなのかな?と思いながら配信を心待ちにしていました。
上演されたのは『わたしを、褒めて』と『DESK』の2作品で、1作品の上演時間が約40分のコンパクトなミュージカル。どちらも共通して「お仕事」が描かれていて、会社員である私には共感できる部分が多かったです。
世界の危機とか奇跡、魔法、世紀の大恋愛とかは無いけれど、自分が今いる「現代の現実」に地続きの場所で起きている出来事、生まれている物語だなぁと感じました。
みんなそれぞれの仕事をして生活して、良いことも悪いこともありながら生きているんだって思えて、ちょっと笑えたり心が温かくなるような言葉や歌が散りばめられていて、今回の「TOHO MUSICAL LAB.」全体から感じる現実的な前向きさが好きでした。
ライブ配信&当日中に公開されたアーカイブ配信が2週間ちょっと楽しめて、その上2作同時上演で3,500円なのありがたかったし満足感ありました。
現実にリンクして胸がぎゅっとなるシーンはありますが、2作品とも良い意味で展開が劇的すぎないからアーカイブ配信の再生ボタンを気楽に押せるし、通勤中や移動時間に気軽に観られる上演時間なのも良かったです。
配信終了日まで繰り返し繰り返し観てたのでロスが…2作品とも音楽が良くて、特に『わたしを、褒めて』の曲がロックでポップで気に入っていたのでバックグラウンドで再生しまくってました。
また何かしらでもう一度観れたらいいなぁ…
配信はすでに終了してしまいましたが、公式ホームページはこちら↓
以下、ネタバレ有りで感想とか思ったことを書いていきます。
わたしを、褒めて
今作の演出家、高羽彩さんが舞台に登場。
一言ご挨拶があって「それではどうぞ〜」っていう流れかと思いきや、舞台を作っている「俳優以外の人」たちの紹介が始まってそのままシームレスに「幕が上がる♪幕が上がる♪」と歌い初めて音楽と物語に入っていきました。「舞台の裏側」ミュージカル。
「与えられた仕事はやり遂げる」
「これが私たちの仕事」という歌詞で「いろいろ思うところはあっても、ある程度仕事は仕事として割り切ってやるの分かるな〜」って共感してたらそのあとの歌詞で
「予算の中でやり遂げる」→予算!?現実的だな…
「この前休んだのいつだっけ?」→これって演劇界あるあるなんですか!?休んで……
「早く家帰って飯食って酒飲んで寝てぇ!」→ものすごい正直だな!!!!!
てびっくりしつつ、これまであまり意識してこなかった「俳優以外の人」の仕事場を覗き見しているようで興味深くワクワク観ていました。
舞台監督鈴木さん(焙煎功一さん)の頼りがいのありそうな職人気質っぽい雰囲気すごくて、本物の舞台監督さん見たことないのに「本物だ!」って思いました。
お騒がせ主演俳優・星奈和登場
衣装の海江田さん(石井千賀さん)の絶叫と「星奈さんが!!!」という最高の前フリがあって、ここで主演俳優・星奈和(有澤樟太郎さん)が満を持して登場。
ギターのギュイ〜〜ン!て音と共に「みんな待たせたな〜♪」はズルい。待ってましたよ!
フリフリギラギラド派手衣装に身を包んだ星奈が初日の開演直前になって衣装を全部変えたいと場を引っ掻き回しまくるんだけど、その理由がゲネプロを見た所属事務所の社長に「ピエロみたいだ」と笑われたからっていうのがまたショボくて…
演出家の朝日さん(美弥るりかさん)が「あのババア、ろくに稽古も見ないで適当なこと言いやがって!」と毒づくとこのベースの音がめちゃくちゃかっこいい。
衣装さんが代わりの衣装の候補を持ってきてくれて星奈くんに提案するけれど、どれも「星奈が考えるミカエルの解釈」にしっくりこない。
最終的に選ばれたのは幕末の脱藩藩士風の衣装でした。
「これだ!俺のミカエルは〜幕末の脱藩藩士だったんだァ〜〜」と嬉しそうに衣装を手に取りお着替えスペースに向かう星奈くん。そんな訳あるか!!!!
演出助手の岡野さん(新井海人さん)が星奈のことを「顔だけが取り柄のポッと出の素人俳優」だと内心で馬鹿にしているのが出ちゃってる出ちゃってる…
「尊重?よく言うよ」からの星奈のパートは有澤さんのいろんな表情の声を聴けてめちゃくちゃ良かった…張り上げた声、拗ねたような声、自分に酔っている声、マウント声、責めるような声、よわよわな声、がなり声…話をするような呟くような、今まで抑えてきたやり場のない感情を怒りで発散させるような歌声だと感じました。
スポットライトを浴びるのも拍手喝采賞賛を受けるのも「ため息あくびイビキにケータイの着信音」が聞こえてくるのも非難されるのも受け取るのは全部矢面に立つ俳優(俺)だから丁重に扱えよ!!
「お前らはいいよなァ!ネットで拡散されなくて!」とあまりにも正直で本音の爆発だったし、演劇あるあるとも思える要素を演劇界からお出しされてメタいな…と思いました。
プロデューサーVS演出家の曲が最高
プロデューサー水川さん(エリアンナさん)と演出家朝日さんのラップバトル感のある主張ぶつけ合い曲。
客は別に舞台のクオリティは重視してないVSハイクオリティな舞台をお客様に届けるのは当たり前
どちらの言い分にも一般的にはそうかもなぁと思える正当性と説得力があって、立場と責任と仕事内容の違いから来てる考え方の違いと対立という感じ。
相手を小馬鹿にしたような表情・声も織り交ぜながらくっきりハッキリ響かせるエリアンナさんのパワフルな歌声が最高すぎる〜!!
ここ言ってることはキツイのに音程がスコーン!パーン!ってハマる感じとリズム感がとても気持ち良くて大好きです。
朝日さんの驚きと呆れと怒りの表情がくるくる変わるのも魅力的で、この演出家VSプロデューサーはセリフだけだとキツくなりすぎちゃいそうなので歌でやってくれて良かったな〜って思いました。曲がめちゃくちゃいい
褒めて、嘘でもいいから
演出家の朝日さんが現場を去ろうとして、星奈のマネージャー田之倉(屋比久知奈さん)が引き止める。
ここまで口を挟まずに様子を伺っている感じだったので、あなたが担当してる星奈くんが現場をめちゃくちゃにした原因ですよ!?と思わないでもないけど、星奈の心情に寄り添いつつ演出家に90度のお辞儀で謝罪して会話をする様子はとてもとても誠実さを感じました。
「褒めてみたらどうでしょう」
ここでタイトルにもある「褒める」のキーワードが回収されてからの屋比久さんの歌が良すぎて、心がじわ〜っとふわ〜っと温かくなるのを感じました。
星奈が舞台セット上をフラフラ歩きながら(出演したドラマがスマッシュヒットして)想定していた下積み生活を経ないで いきなりスター、プロの仲間入りをしてしまった現状の胸の内を歌うのですが、登場時の怒り爆発曲の裏側にあったのは戸惑いと不安と孤独と、自分自身への失望感だったんだなぁと分かりました。
星奈のしんどそうな様子を見た朝日さんに「褒めて 朝日さん、褒めて 嘘でもいいから」ともう一度歌いかけるマネージャー田之倉さん。
あんなに切実で真っ直ぐな目で、あんなに澄んだ歌声で訴えかけられたら勝てないよ…「俳優の星奈和」を一番近くで見てきたマネージャーさんの、星奈の身勝手な行動は認められないし許されない事だって分かっているけれど、それでもどうか、どうか今だけは彼に寄り添ってあげてほしいっていう切実な気持ちが詰まった「嘘でもいいから」だなって感じました。
褒めて、できれば本音で
演出助手の岡野さんが痺れを切らして星奈を褒めるのですが「スラリと伸びた〜長い脚〜」の時のバレエっぽい動きがすごく軽やかでびっくりしました。新井さんは今回初めて拝見したんですが、めちゃくちゃ踊れる方だったりします?
衣装の海江田さんの「保護するために税金を注ぎ込もう♪」で笑ってしまった それTwitterでオタクが言うやつ
舞台監督の鈴木さんの「あなたがいるから頑張れる」と、プロデューサー水川さんの「君が笑いかけてくれたら灰色の日常が輝きはじめる」も俳優さんのファン、推しがいる人の気持ちを代弁してくれているようで、そうなの!そうなんだよ!と思いました。
星奈くん、突然みんなに褒められて訝しげな表情なのに口元を少し緩めながら「え…?そうですか……?」って言ってるのがちょっとチョロくてかわいい
みんなが一通り褒めたあと全員でバッと朝日さんの方を見て身振り手振りで「褒めて」の圧をかけるシーンはめっちゃドタバタコメディ感
屋比久さんの「ほーめーて〜〜〜〜〜」がもはや懇願に近い切実さで、褒めて褒めてほらほらって手で促す動きが好きでした。
みんなに促されて「嘘は…つけません」と口を開いた朝日さん。ダメか〜〜と思っていたら星奈の持つ演劇愛こそが魅力で、それだけで十分だって本音の褒め言葉が出てきて一気に空気が変わっていく。星奈が朝日さんを見つめる視線が「この人を信じてもいいんだろうか」と言っているように感じました。
朝日さんがセットの階段の下で手を差し伸べて「あなたが主演で良かったって、心から思ってます」と言葉をかけて、星奈くんがその手を取って応えると同時に音楽がジャンッ!!ここで大団円を確信しました。これって朝日さんから星奈くんへの特大の「ここに居ていい」だし、星奈が一番欲しかった言葉なんじゃないかなと思いました。
見つめあって、朝日さんにエスコートされるように手を引かれて階段を降りてくる星奈くんの図が最高すぎる……
心の根っこの部分に寄り添う大団円
みんなで目を合わせて頷きあって、集まって手を取り合って円陣を組んで歌うのが本当に本当に良くて……
この歌詞を聴きながら私はちょっと泣きました。
立場の違いや考え方の違いはあっても、みんな根っこの部分は「ここに居ていいって思わせて」なのかなと思いました。
自分は他人に、相手に、この人に受け入れてもらえるだろうか、受け入れてもらえたらいいなってみんな思ってるんだなって…
このあとキャストさん7名が横一列に並んで「頑張ったことには意味があるって」という歌詞を客席を見渡して一人一人と目を合わせるように繰り返すのですが、これ配信で見ても「私」に向けて言ってくれてる気がしてとてもとても胸がいっぱいになったので劇場で生で観たら大変なことになっていた気がする。
自分がやったこと、頑張ったことが無駄になったり「何のためにこんなことしてるんだろ?」って思って虚しくなってしまうのが仕事でも日常生活でも結構メンタルに堪えるなぁと思っています。
だから配信越しでもこうやって言い聞かせるように「頑張ったことには意味がある」って何度も言ってもらえたことが嬉しくて、励まされたように感じて、この歌詞に出会えて良かったなぁって思いました。
幕が上がる(リプライズ)
星奈の「土壇場で衣装全部変えたい事件」が一件落着したところで開演10分前!冒頭で歌われた「幕が上がる♪」を歌いながらバタバタと準備を整える一同。最初とはアレンジがちょっと違うようで、ベースの音がめちゃくちゃかっこいい!
主演俳優・星奈和がド派手衣装にさらにド派手羽根飾りを追加して登場。
「みんな任せとけ!」「劇場いっぱいの拍手 バックステージに届けてやる 矢面に立つ俺が!」と高らかに歌い上げる彼の表情は吹っ切れたように、覚悟が決まったように晴れやかで、先ほど「俺!俺!」と独りよがりに怒りを発散していた時とは別人のようでした。
星奈くんが舞台セットの階段を登り、シアタークリエの客席に背中を向けて舞台の中での客席の方を向いて立ち位置につく。スモークがゆらめく中、幕がゆっくり上がっていくの舞台裏から見守るスタッフさんたちが歌う「幕が上がる 幕が上がる 幕を上げろ♪」からはものすごい高揚感を感じました。
上がった幕の向こうから星奈くんにスポットライトが当たる。
幕が!上がった〜〜〜〜!!!!!!!!!
舞台裏で働くスタッフさんの気持ちと、作中の舞台の初日を心待ちにしていた観客の気持ち両方が混ざったような、とにかく嬉しい気持ちでした。
無事に初日の幕が上がって良かったし、大千秋楽までこのチームで駆け抜けてほしいと思いました。そして舞台を観た観客から、一緒に仕事をしたスタッフさんたちから演出家の朝日さんもめちゃくちゃ褒めてもらえますように…と願わずにはいられません。彼女の名前でチケットを買っている人も絶対にいるはずだし、新進気鋭の演出家・朝日さんの快進撃はここからだと勝手に信じたい気持ちです。
『わたしを、褒めて』全体を通して、今いる場所で、これが私の仕事だって、やれる範囲で精一杯頑張っているのを肯定してくれるような優しさを感じました。
DESK
『わたしを、褒めて』の煌びやかな舞台の世界、の裏側……からの薄暗い灰色のオフィス!落差がすごい。
積み上げられた事務机の片隅で主人公の和田(東啓介さん)が離婚した元妻と電話中。電話越しの言葉のやり取りがすごくリアルで生々しいなぁと思いながら、後ろの事務机と東さんの腰の位置を見比べてスタイルの良さに慄いてしまう…
会社だ…これは会社員の話だ…
電話をしながら登場する同僚の上野さん(豊原江理佳さん)と中原くん(山崎大輝さん)の仕事中の皮をかぶった電話用の声に分かる〜分かるわ……となりました。
中原くんが和田さんと鉢合わせてお互い同じ方向に避けてしまうアレが発生してしまって、山崎さんの「すいませんすいません、アッウッ鏡みたいなになに?チョどいてどいてねえねえ!ワダサンッすいませんほんとに!」の声がめちゃくちゃツボでした。
プロデューサーの三浦さん(壮一帆さん)も登場してもしもし?もしもーし!もしもし!?の四重奏。状況は良くない様子。
修羅場のアニメ制作会社 TERA
お昼の時間になってランチミーティング。
和田がみんなに弁当を配って「いただきます」と食べようとした瞬間にケータイの着信音が鳴って、和田は弁当を後回しにして電話を取る。
その間に上野さん中原くんから三浦さんによろしくない状況の報告があって、そのバックに「いただけな〜い いただけな〜い」のコーラスが入るのが哀愁を誘いつつシュール…こんなの初めて聴いたな…
ここで上野さんの口から「仕方ないですよ…先月3人飛んだんだから」という衝撃の事実が飛び出して、あまりに修羅場すぎてこれはドタバタお仕事ミュージカルの範囲に収まれないやつでは!?と思いました。
男子が彫刻みたいになって寝ている!
女子が弁当に顔を突っ伏して寝ている!
プロデューサー三浦さんがいきなり大きな声で高笑いをして、「こうでもしないと…」と言い残して寝落ち。真面目でまともそうな三浦さん(を演じている壮さん)がめちゃくちゃ漫画かアニメかみたいなコミカルなことになってて面白いけど…いや、ヤバいよこの現場……………
このあと和田が「これ盛りすぎかと思われるかもしれないけど結構リアル」と歌い上げるのがキツい。盛りすぎであってほしい。
1曲目から「上がらない 眠れない 終わらない 帰れない」みたいなしんどい現実が耳に残るメロディと綺麗なハーモニーで歌われていく。自分の仕事が終わらない帰れなくて連日の残業に陥っていた時期のことを思い出してめちゃくちゃつらい……現実すぎて、身に覚えがありすぎる。
こんなに現実味のある歌詞とミュージカルは初めてかもしれない…いや多分初めてだな…
仕事に忙殺される社会人への共感
昼食が食べられないまま午後の業務が始まって、上野さんが中原くんに「今の担当が終わったら辞める」とサラッと普段の会話のトーンで打ち明けるシーン、2人とも辞めるとか人がいなくなるとかに慣れすぎちゃって大きな感情の変化がなく淡々と会話が進んでいく…
中原くんの「人間的な部分を引き出す作品を作ってる自分たちが人間的じゃなくなってくって…マジどうかしてますよ」の発言に対しては、上野さんと一緒に「それな!」と思いました。
仕事のせいで自分の人間らしい部分が損なわれていく感覚と、それがどれだけ虚しいか、業界業種程度の違いはあれど心当たりはあって…分かるなぁ…しんどいよな…と共感しました。
中原くんの「まぁ…もう…カテイジャナイカ〜〜」の言い方が本当に他人事で人でなしっぽくて良かったです。山崎さん演じる中原くんの常に一歩引いて脱力気味に生きてる若者のリアリティがすごい。
上野さんがデッドラインを超えたカットの催促で電話をかけた相手が仕事をしていないどころか海外旅行中と判明して怒りと虚しさを込めた超明るくてポップな曲調のぼやき曲スタート。
さっきまで仕事用の明るい声と笑顔で電話していた上野さんが険しい表情でブチギレ渾身の「時間を守れ!約束を守れ!」を叫ぶのが最高でした。豊原さんの声色の変化が本当に魅力的!
「宝くじを!当て〜よ〜う〜〜♪」の歌詞とメロディがめちゃくちゃ頭に残る。「お金が欲しい」「時間が欲しい」誰もが考えたことあるであろう望み 想像 妄想 現実逃避に共感。
あまりにも切ない現実。
アニメ業界はこの傾向が強いと聞くけれどその仕組みは是正されてほしいし、個人が頑張ったことに対して還元がされないってのは残念ながら多くの業界業種でも割とあるあるなんじゃないかな…
音信不通で飛んだ人より人っぽく居たいから、一応社会人で居たいから、せめて最後まで!と意気込む上野さんは本当に真面目だし、ここまではやるっていうプライドあって責任感が強い人なんだろうな。本当に報われてほしい…
誰のための仕事?誰のための人生?
和田が社会人生活を振り返るナンバー
ずっと憧れていたアニメの世界、憧れの会社TERAに入れたのに、ホワイトと聞いていたのに、2年目でどブラックだったと気づく…うわぁ…
ごめんね、と言いながら家庭も仕事もどんどん状況が悪くなっていくのが見ていてとてもつらい
ブラック企業、ブラック業界に身を浸しながらもそれでもアニメが好きで、担当したい作品に出会って、アニメで成功したいという気持ちは捨てられなくて仕事を辞められない、仕事以外の大切なものを失っていく和田。
仕事に追われすぎている和田に対して家庭を蔑ろにされた妻から「あなたの作るアニメは誰のためになるの?」の言葉が出た時のことは想像するしかないけれど、お互いいっぱいいっぱいの極限状態だったんじゃないかな……
和田さんは「ごめんね、きっと自分たちのため」というアンサーを歌うけれど、自分のために仕事をしながら自分のために妻を、娘を、家庭も大切にできれば良かったのに、そうできなかったのは和田さん本人だけの責任でもないような気がしますね…会社の慣例とか業界の仕組みとか、個人の力ではどうにもできない要素の影響はあったと思うので。全面的に彼本人が悪いとか悪くないとか白黒ハッキリできないのが「現実」って感じします。
地獄絵図
せめて最後まで!と作品を信じて突き進む和田のなりふり構ってられない様子と、床や机に散らばったカットを必死でかき集める中原さん上野さん三浦さんが順番に力尽きて脱落していくのが完全に地獄絵図
それでなんとか出来上がったのが使い回しと止め絵ばかりの作画崩壊アニメなのが本当に……居た堪れない………(このアニメは誰のためになるんだ?って問いを観客にも抱かせるのやめてよ…)
なんとか最終話の完成まで漕ぎ着けた和田が膝を抱えてキラキラした目で最後のシーンを見つめていて、途中で涙を拭いながら終始満足そうな表情をしているのが印象的でした。
アニメのカナデが歌う「休んでいいよ 頑張ったもんね」から始まる歌が疲れた大人の心に沁みる…歌が上手すぎる……
カナデ役の三浦あかりさんの透き通った綺麗な高音と、そのさらに上の音程で響かせる東さんの2人の美声に聞き惚れました。
この素晴らしいデュエットで今までの地獄はチャラ…には絶対絶対ならないんだけど、ここまで辿り着いて、現実の奏にもアニメを見てもらえたことは確かに和田さんの救いになったのかな、と思いました。
転生できないから現実は続いていく
会社を去る上野さんの言い残した言葉「今の私の幸せは、対価に見合うお金を稼ぐことかもしれません」には、彼女がTERAで仕事をする中で犠牲になったものがたくさんあったことが察せられてやるせない…
中原くんは退職の挨拶をリモートで済ませ、三浦さんはNetflixと仕事をすることになり、誰もいなくなった寂しいオフィスに1人佇む和田。
弁当を取り出して食べようとした瞬間にまた携帯に着信があり、咄嗟に電話に出ようとする動きが今回はピタッと止まる。弁当を見つめて逡巡して、携帯を机に置く。
何にも問題は解決してないし むしろ人は去っていったのに、一つの修羅場を乗り越えて、仕事を後回しにして弁当を頬張る和田さんの表情は晴れやか。
和田さんはアニメが好きなだけじゃなくて、アニメで成功したいっていう目標・夢がしっかりあって、家庭や時間や大切なものを失いながらもそれでも夢を諦めきれない、アニメを作ることを辞められない人なんだなと感じました。
だから和田さんだけがTERAに残っている現状もキツい現実だなぁとは思うけどバッドエンドとは思えなくて…
ごはんを食べて、仕事をして、少しずついろんな変化がありながらこれからも生きていくっていう結末は、淡々と続いていく日常(ただし、たまに波乱あり)を感じさせる現実的なラストだなぁと思いました。
おわりに
『わたしを、褒めて』『DESK』どちらもお仕事を扱ったミュージカルで、どちらも日本初のオリジナルらしい題材だと感じました。
2作品とも「やったらやっただけの成果や評価を得られるわけではない」空気感がベースに漂っているように思えて、それは自分の仕事や日本社会全体にも言えることだな〜と…悲しいけど…
思うようにいかない現実や劣悪な労働環境など見ていてしんどくなる要素はありつつ、しんどくなりすぎなくて要所要所でカタルシスも得られるのは歌と音楽とお芝居が入り混じるミュージカルならではだと思いました。
それにしてもしんどい現実はどうにか是正されて欲しい…特に作中の登場人物たちが求めていた休みとお金と時間を……
カーテンコールで『DESK』和田役の東さんが「できないけどやっちゃう!あんまり良くない、でもやっちゃうんですよね」「あんまり頑張んなくてもいいんじゃないか」と話をされて、『わたしを、褒めて』水川役エリアンナさんが「褒めよう?」と提案する場面がありましたが、ここで私はそういえば今日(ライブ配信当日)勤労感謝の日(11/23)だ…ということに気づきました。もしかしてこれを狙って日程と題材を合わせました…?
勤労で疲れた心に刺さりつつ癒しをくれた「TOHO MUSICAL LAB.」とっても好きでした!
ライブ配信&期間長めのアーカイブをありがとうございました。
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