ツラツラ小説。 電車と自転車。

ガタンゴトンガタンゴトン。
電車が通る。僕を通り越す。
ガタンゴトンガタンゴトン。
音が私を追い越して、私は音に置いていかれる。
ガタンゴトンガタンゴトン。
君の声を私を忘れた。君が電車に乗って大人になっていった瞬間を忘れた。君が東京を知った瞬間を忘れた。君が僕を忘れた時を忘れた。何もかも忘れた。
ガタンゴトンガタンゴトン。
ここは車両基地。もうガタンゴトンと言えなくなった電車がたくさんある。もう動くこともないがそこに存在できる。僕はなんだ。君に忘れられ、居場所もなくて、ただ消えるだけだ。我慢してきた。いろんなことを。でもほんとは我慢なんかしなくて良かったのに。ただ我慢して、そうしたらいつのまにか忘れられた。自分から動く人が必要とされるんだ。誰かに言われて動く人ではなく。
古い電車はうるさい。ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン!!!!!
だけど、動き続ける。うるさくても動き続けるそれは、静かで動かないやつよりもずっとずっと相手にされる。

自転車を漕ぐ。自転車は自分の力で動かさないと動くことがない。自分のために動き、そのためには自分が動かなければならない。

そういうことか。

自分から。自分からだ。

ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトン。

大きな音。電車が通る。

チリン。

小さな音。少しだけその電車に対抗してみたくて、ベルを鳴らしてみた。

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