【小説】ミーちゃん【ショートストーリー】
2022年2月22日
半年間、昏睡状態だった飼い猫のミーちゃんが目を覚ました。
「あーよく寝た」
そう言って、ミーちゃんは寝床で伸びをした。
「え?え?ミーちゃん!!ミーちゃんが目を覚ました!あれ?今、喋ったた?なんか喋ったよな?」
「よ!カイト久しぶり」
「やっぱり喋った!え、マジでなんで?なんで?」
「まあ、落ち着けよ。なんか喋れるようになったわw」
「…ミーちゃんが喋ってる。これ、夢なのか?」
「夢じゃねーし。現実だ」
ミーちゃんは僕に猫パンチを食らわした。
「痛っ!この猫パンチ…ミーちゃんのだ。じゃあ、これは夢じゃない…?」
「そう、夢じゃない。お前の飼い猫のミーちゃんは目の前にいて、こうやって喋っている。現実だ」
「ミーちゃん…本当に生きてたんだ…。獣医師さんに、もって一週間くらいだろうと言われてから半年…。なかなか死な…目を覚まさないし、呼吸はしてるけど実は死んでるじゃないかって思ってた…」
「死な…。まあ、そう考えるよな。実は昏睡状態だったけど意識はあったんだぞ。お前らの会話だって聞こえてたんだ」
「そうだったんだ。会話ってどんな事聞かれてたんだろ…何だか怖いよ」
「そうだな…。俺が昏睡状態になったはじめの頃は『ミーちゃん、ミーちゃん』って皆、よく声をかけてくれたよな…。1ヶ月くらい経った頃『お母さん、ミーちゃんってもって一週間だったよね?なのにまだ生きてるよ』『そうなのよ…』なんて会話も聞こえてきたな…」
「あ…それはごめん。だって獣医師さんが…」
「まあ、気にしてないから。そういえば、あの時は嬉しかったな…お前の妹が『新しい猫が欲しい!』って言い出した時、お前は『まだミーちゃんは生きてるんだ!新しい猫なんていらない!』って言ってくれたよな。ジーンとしたな…」
「当然だろ、ミーちゃんは生きてるんだから…」
「その1ヶ月後『子猫拾ってきた!』って言ったお前の弾んだ声は忘れられないよ」
「ごめん…」
「いや、いいんだ。しょうがないよ。動かない猫なんて死んでると同じだからな…」
「ミーちゃん…死んでると同じだなんて思った事ないよ!確かに干からび…げっそりしてたけど、死んでるだなんて思った事ないよ!」
「干からび…。うん、わかってるって。そういえば、お母さんが悩んでたぞ」
「お母さんが?」
「お前のアレを見てしまったと…」
「アレ?」
「ノックせずにドアを開けたらお前がオナニ…」
バンッ!!
「ミーちゃん!!その話はしなくていいから!!!」
「おービックリした。すまん。お前も成長したんだなって思って。手、大丈夫かな…」
「そりゃあ僕だって成長するよ。ミーちゃんが昏睡状態になって半年も経ってるんだから!」
「そうだよな…。ただ、お前があの日以来、あまり口を聞かなくなったってお母さんが寂しがっててな…。お前のオナ…」
バンッ!バンッ!!
「ミーちゃん!!もういいから!その話は…」
「すまん。もうしない。手、痛くないかな…」
「こっちこそごめん。触れられたくない話だったからつい…」
「そうだよな。オ…」
バンッ!!バンッバンッ!!ドカッ!
「ミー!!!」
「もう、絶対にしない」
「わかってくれればいいんだよ」
「すまん。テーブル、大丈夫かな…」
「そういえば、ミーちゃんって昏睡状態になったあの日、何があったの?」
「ああ、あの日か?あの日は確か…いつもの様に近所のメス猫ちゃんとイチャイチャした後、隣町にエロいメス猫がいるって猫のコミュニティで噂になっててな、見に行ったんだ。やっとの思いで見つけてチョメチョメしてたら、その町のボス猫に見つかっちまって命からがら逃げてきたんだよ」
「ふーん、それで?」
「それでチョメチョメが中途半端だったもんでムラムラしててな…その辺にいたばーさん猫でいいやって思ってやってたら、例の近所のメス猫ちゃんに見つかっちまって追いかけられたんだ」
「ふーん、ミーちゃんクソだね。それで?」
「クソって…。まあ、そのまま追いかけられて家に入った俺は慌てて風呂場に駆け込んで床で滑って頭をゴンッてな…。で、今に至る」
「だから風呂場で倒れてたのか…」
「あーなんか眠たくなってきたなあ」
「ミーちゃん…?」
「俺、そろそろ寝るわ」
「寝るって…」
「色々ありがとな。食べれない、飲めない俺の為に毎日交代で点滴に通ってくれて…。他にも下の世話とか大変だったよな…」
「ミーちゃん…」
「それも今日でおしまいだ」
「何言ってんの…」
「新しい猫?俺に似てるから拾ってきたんだろ?『二代目ミーちゃん』って名前、長いよ…。俺の変わりにうんと可愛がってやれよな」
「う…ん」
「ありがとな」
「こっちこそ…ありが…と…」
「泣くな。また会える。今度は2222年2月22日に!」
そう言って、ミーちゃんは寝床で丸くなった。
「そこまで長生きできないよ…」
その後、ミーちゃんは目を覚ます事はなかった。
2222年2月22日
半年間、昏睡状態だったお父さんが目を覚ました。
「あーよく寝た」
そう言って、お父さんは病室のベッドの上で伸びをした。
「え?え?ミーちゃ…お父さん!!お父さんが目を覚ました!あれ?今、喋った?なんか喋ったよな?」
なんだこの既視感。