【小説】生きているから飛ぶんだ【ショートストーリー】
時は西暦5959年
人類が滅亡して千年以上が経った。
現在、黒い宝石と呼ばれる種族がこの地球を支配している。
「諸君、我々の種族が背中に翼があった頃、人間の化学兵器によって、ほとんどが滅ぼされた。わずかに生き延びた種のおかげで、今の我々がある。あれから我々の体は進化を重ね、人間のように二足歩行となり、独自の言語を作り、文明の利器よって翼は必要なくなった。しかし、化学兵器には弱い。いつどんな種族が現れてもおかしくないこの地球で、化学兵器は我々の脅威となるだろう。今日は君たちに、この地に埋もれている、その化学兵器を発掘してもらいたい」
「クロ教授!質問をしてもよろしいでしょうか?」
「なんだね、ヤマト君」
「その化学兵器というのは、形というか…何か特徴はあるのでしょうか?」
「うむ、説明しよう。かなり昔の事なので文献はほとんど残っていない。わかっているのは、化学兵器に使われいた一種類の成分と、化学兵器が円柱形をしていたという事だけだ。成分はおそらく二種類以上は使われていたと推測される。念のため、ガスマスクをして作業にあたってもらいたい」
「クロ教授。なぜ発掘が必要なのでしょうか?」
「あー、きみは確かチャバ君だったかな。なぜ必要か?…そんな事もわからないでここにいるのかね」
「も、申し訳ありません!ただ教授のお役に立ちたくて、ここに来ただけなので…なんの知識もないんです。どうか、なぜ発掘が必要なのか教えていただけないでしょうか」
「まあ、よかろう。なぜ発掘するのか…。現在、この地球には黒い宝石と呼ばれている我々の種族しかいないとされている。しかし、はたしてそうなのか?この広い地球でひそかに生き延びている種族がいるのかもしれない。我々の種のように。もしかしてそれは人間かもしれない…。そう考えると、再び我々が滅ぼされる日が来るかもしれない。化学兵器によって」
「しかし、千年以上前の化学兵器って使えるんですか?」
「今の我々の技術なら可能だ。わずかでも残った成分を分析して、同じ化学兵器を再現できる。ただ、技術はあるが情報がないのだよ。どんな成分を使えば我々が死ぬのか…。なんとしても探し出して処分せねばならない。他の種族より先に…」
「そういう事だったんですね…。わかりました。クロ教授、ありがとうございました!発掘頑張ります!」
「うむ。それでは諸君、発掘作業を始める。何か見つけたら私にすぐ知らせるように」
※※※
「クロ教授!円柱形の物がありました!!」
「ヤマト君、もう見つけたのかね。どれどれ、見せたまえ」
「はい!」
「確かに円柱形だね。何か書いてあるな…ん?Red Bull…これは『翼をさずける』のキャッチフレーズでお馴染みの、エナジードリンクじゃないか!」
「これは化学兵器なんですか?」
「いや、翼に憧れを抱いた愚かな人間が産み出した精力飲料水だ。これで逝けるわけがない」
「教授!見つけました!」
「今度はチャバ君かね。どれ、見せたまえ」
「はい!」
「これは…白い薄っぺらいものがひらひらと浮いている…これはトイレットペーパーじゃないか!!馬鹿者が!」
「申し訳ありません!!円柱だったらなんでもいいかと…」
「なんでもいいわけないだろ!私はエリエールしか認めんぞ!それもダブルな!」
「教授!ありました!」
「それはみかん缶!カンカンやぞ!」
「教授!見つけました!」
「それはネピアじゃ!浮気はだめや」
「教授!ありました!」
「それピー-や!わしに放送禁止用語言わせる気か!」
「教授!見つけました!」
「それキッチンペーパーや!もう、吸いとれ」
「教授!ありました!」
「それサーモスのスープジャーや!ランチまであつあつのやつ。お手入れ簡単」
「教授!」
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「ハアハア。君たち、いい加減にしたまえ!もっとまともな物を持ってこれんのかね」
「教授!ありました!今度こそ、今度こそ化学兵器です!」
「チャバ君、君はさっきから紙類しか持ってきてないか…ん?これは…スコッティや!3倍長持ちするやつ!価格ドットコムで2022年3月にエリエールを押さえて1位になったやつやないか!柔らかい」
「教授!ありました!本当に本当に本当に本当に!」
「ヤマト君、ライオンでもいるのかね。ん?今すぐそれをよこしたまえ!これは…円柱形でかすかに薬品の匂いが…」
「教授!化学兵器ですか!」
「落ちつなさい!早速、成分を調べるとしよう。円柱の内側の粉状のものを取り除いて分析機にかける…。さて、どうでるか」
「ドキドキしますね!」
「結果が出たようだ。フェノトリン?文献どおりだ!他にはd,d-T-シフェノトリン…メトキサジアゾン…。間違いない!これは化学兵器だ!よくやったヤマト君!!」
「ありがとうございます!!クロ教授のお役に立てて嬉しいです!」
「ん?砂でよく見えないが…何か書いてあるな…」
「なんて書いてあるんですか?」
「バル…サ…ン?」