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【小説】冒険のはじまり【ショートストーリー】
木の隙間からこぼれる太陽の光を浴び、宗太は目をキラキラさせていた。
右手には虫取り網、首から大きめの虫籠をぶら下げ、森を駆けまわる。
ひんやりとした風が流れるのを感じ、森の青い空気を思いっきり吸い込んだ。
宗太はアレを探していた。
木の根元、岩と岩との隙間、暗いじめじめとした場所をくまなく探す。
「いないなぁ…」
少し疲れた宗太は、切り株の上に座り一休みする。右のポケットに手をつっこみ、おばあちゃんからもらったミント味のチュッパチャプスを口にほおりこんだ。
「次はどこを探そうか…」
しばらく考えた後、急に立ち上がった。
立ったまま、チュッパチャプスを噛み砕き、少しずつ飲み込んだ。残った棒は右のポケットに入れた。
宗太は森の出口に向かって走りだした。
「あそこならいるかも」
森から出ると、森に入る前とは違い、日差しが柔らかだった。走っている宗太の体に、生温かい空気がまとわりつく。
10分ほどで目的地に着いた。そこには、田園風景が広がっていた。
「よし、やるか」
用水路の横の伸び切った草をかき分け、アレを探す。
宗太は用水路をのぞいた。メダカたちの群れが、忙しそうに泳ぎまわっている。
「うわ、すげぇ…こんなに」
日が傾きかけた頃、一台の車がクラクションを鳴らし宗太に近づいてきた。
車は徐々にスピードを落とし、ちょうど宗太のいる横で止まった。
宗太は右手に持っていた虫取り網と首からぶら下げていた虫籠を、草むらに隠すように置いた。
男が車から降りてきた。
「久しぶり!宗太」
「ああ、なんだ圭吾か。久しぶり」
「なんだじゃねーよ。相変わらずだなお前。本当、久しぶりだよな。二年前の同窓会以来か?」
「確か…そうだったな」
「地元にいるのに全然会わねえな。ところでお前、こんな所で何やってんの?」
「えっと…最近ここの用水路にゴミを捨てるやつがいてさあ、拾ってたんだよ」
「まじか!偉いなお前。俺はてっきり虫とか探してるのかと思った。」
「まさか!子供じゃあるまいし」
「子供の頃のお前、めずらしい生き物がいるって聞けば、目キラキラさせて虫取り網持って、森の中駆けずりまわってたよな」
「おいおい、一体いつの話しだよ」
「まあ、大人になって虫取り網持って走りまわってても別にいいんじゃね」
「え?」
「なんつーかうまく言えないけど、ファーブルとかエジソンとかって変人だったんだろ?何十年も何かを追いかけ続けるなんて変人じゃないとできないよな。普通の人なら数年で諦めて放り投げるよ。世の中にお前みたいな変人が一人や二人いてもいいんじゃないかって事。そんな変人が歴史的な大発見するかもしれないだろ?」
「なに言って…」
「奥村が結婚するんだって。嫁さんになる人連れて、昨日からこっち帰って来てるんだよ。明日、坂下の親父の店でお祝いするからお前も来いよ。後で時間とかメールするから。また、めずらしい生き物の話とか聞かせてくれよ。じゃあな」
圭吾はそう言い残し、車に乗り走り去って行った。
宗太は車が見えなくなるまで見送った。
左のポケットからメンソールのタバコを取り出し、口にくわえ火をつけた。灰色になった空気を思いっきり吸い込んだ。
西の空に沈む太陽をしばらく眺めていた。宗太の目は橙に染まり、その奥はまだ光を失っていなかった。
半分も吸っていないタバコの火を消しし、左のポケットに入れた。
うしろのポケットから折り畳まれた一枚の紙を取り出した。宗太はそれを、丁寧に広げた。
未確認生物
ツチノコ目撃情報あり!!
生け捕り
賞金 2022万円
宗太は虫取り網を拾い、走り出した。