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【小説】オッサン
第74回オッサン選手権でグランプリを獲った小和田さんと日帰り旅行に行く事になった。
小和田さんと初めて出会ったのは、第69回オッサン選手権の時だった。初めての大会で、オロオロしていた俺に声をかけてくれたのが小和田さんだ。声をかけたのは、昔飼っていたミドリガメに似ていたからだとか。
オッサン選手権の出場条件は、35歳から59歳の男性である事。加齢臭部門、ダジャレ部門、おしぼり部門、バーコード部門、哀愁部門と、5つの部門に分かれて審査が行われる。なかでも加齢臭部門は審査が厳しい。臭計測器で臭いを測定し、その数値が5から10でなければならない。臭いの質も審査され、これは審査員の好みに左右される。事前に審査員の好みの臭いをリサーチし、食事、運動に気を使わなければならない。小和田さんは、そのノウハウを俺に叩き込んでくれた。
そのお陰で今回、俺は準グランプリを獲得した。小和田さんは今年で59歳。最後をグランプリで飾った。
お祝いに、小和田さんと日帰り旅行に行く事になった。待ち合わせをしていたバス停で小和田さんは新聞を丸めゴルフのスウィングをしていた。常にオッサンである小和田さんは、オッサンの鑑だ。
「小和田さん、おはようございます」
「ああ、おはよう。今日は晴れてよかったよ」
「そうですね。あれ?小和田さん、もしかして鏡持ってきたんですか?」
小和田さんの上着の胸ポケットが膨らんでいるのに気がついた。
「あー、しまった。いつもの癖で持ってきちゃったよ」
小和田さんは胸ポケットを手で抑えながらそう言った。
鏡は妙に分厚いが、何の変哲もないオッサンの鏡だ。小和田さんが選手権の時に必ず持っていくアイテムで、鏡を手に持ち『鏡よ鏡、この世で1番オッサンなのはだあれ?』と言い、自分の顔を鏡に映すのだ。そうすると、気持ちが落ち着き、自信が漲るんだとか。初めてその光景を見た時は驚いたが、今では見慣れたものだ。
バスを待っていると、近くで大きな衝撃音が聞こえた。
音の方を見ると、黒い大きなワゴンが建物に突っ込んでいた。しばらくすると、車から黒服の男たちが出てきた。建物からも、恰幅のいい男たちがゾロゾロ出てきた。そして、怒号と共に銃声が響いた。
近くにいた人たちは、泣き叫び逃げ惑った。
俺も逃げようと思ったが、恐怖で足がすくんで動けない。
もたもたしていると、黒服の男が向こうからこっちへ走って来るのが見えた。男の後ろから数発の銃声も聞こえた。
何を思ったのか、小和田さんは俺の前に立ちはだかった。その瞬間、小和田さんはふっ飛んだ。
あわてて、倒れた小和田さんに近づく。
「大丈夫ですか!」
俺の問いかけに小和田さんは、ニヤリと笑ってこう言った。
「小和田が終わた」
ああ、小和田さん、あなたは
道路に転がっている割れた鏡に視線を落とす。
オッサンのかがみだ。
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