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雑文 #122

村上春樹の新作『騎士団長殺し』を昨夜読み終えた。

まだ内容自体には触れないでおくけど言いたいことはたくさんある。


一方で私はこの作品に関して他人の感想をとくに知りたくない。だから見ていない。絶対知りたくないわけでもないけど、自分の感想だけで充分だ。つまりとても満足しているということだろう。


最初の100ページを読んで、「キタ――(゚∀゚)――!!」と思った。

これを待ち望んでいたのだよ私は…

※これから私の独断と偏見が始まりますが、私は私の考えが絶対だと思っているわけではありません。一個人の一感想ですのでご理解ください。


私は読書が好きなほうだが、村上春樹の作品がいちばん好きだ。彼はエッセイ、紀行、翻訳、対談、短編小説、中編小説などいろいろ出しているけれども、圧倒的に好きなのが長編小説だ。

『騎士団長殺し』は圧倒的に長編小説であるから、つまりは世界でいちばん好きなものを私は味わったということになる。

100ページ読んだ辺りで「これは私の好きな系統の物語だ」と確信すると、とたんに読み終わるのがもったいなくなった。だから高級なお菓子を毎晩ひとつずつじっくり味わって食べるみたいに、ゆっくりと丁寧に読んだ。数行読んで、その表現力に唸り、目を閉じて想像を巡らしてみたりしながら読んだ。読み終えてしまっていま、とても悲しい。


だって次はいつこんなものが書けるかわからないからだ。

私は待っていた。『海辺のカフカ』が出た2002年からずっと待ってた。

その間にいろいろ書いているじゃないか、と言われるかもしれない。でもこの15年間で出版された「長編小説」は『1Q84』だけだ。そして私は『1Q84』がぜんぜん好きじゃない。


「ぜんぜん好きじゃない」とはいえ私はそれを3度読んでいる。私はきらいな話をわざわざ読むタチじゃない。それはたとえばくるりの曲の中でいちばん好きじゃないほうの曲を聴いているときのような気持ちだ。他のミュージシャンがその曲を作ったとしたら「名曲だ」と言うだろう。わかるかなこの例え?

「村上春樹の長編小説にしては、駄作だ」と思ったのである。


私は彼の作品を、昔のものであれば7〜8回読み返しているほどの相当キてるファンだ。そしてたとえば『羊をめぐる冒険』や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる表現に唸りすぎて、それを書き写したりしていたことがある。相当キてる。読みながら付箋を貼っていって、後でそれを日記に書き写すのだ。

『1Q84』でそれをやろうとしたら、付箋を貼りたいところなど一箇所もなかった。最初に読んで、あまり気に食わなかったのはそのストーリーそのものかと思っていたが、違った。私からすれば表現力も落ちていたのである。ごめんなさい『1Q84』ファンの皆様。ただの私見です。この作品はとても売れたし、新しい読者をたくさん獲得したと見知ってはおります。

私はがっかりしたものでした。「ああ、もう私の好きなタイプの作品は書いてくれないのか」と。私からすると『1Q84』は異質すぎた。まるでテレビドラマのようだった。簡単に登場人物が想像できた。長いわりに深みを感じられなかった。天吾にも青豆にも思い入れができなかったので、ふたりが結ばれようとなかろうとどうでもいいと思ってしまった。というか、全部がマボロシであってほしいと思った。3巻目が出たときその辺のもやもやが解消されるかと期待したら、それはさらに落胆させられるものだった。現実世界で殺し屋をやってるなんて、もうそこから違う。なんというか、単なるドラマだ。


だけど『女のいない男たち』や『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだとき、まあ待てよと思った。ちょっと実験的になってみただけで、まだああいう私の好きなタイプの小説が書けるんだと思った。

ああいうタイプの小説というのは、つまり主人公が何か失われたものや失いつつあるものを求めて冒険や奮闘をする物語だ。そこに形而上的なことが絡んでくる。現実と非現実の狭間が曖昧になる。そして主人公はいたって「普通の」あるいは「普通ふうの」人物だ。そして私は彼に絶対的好感を覚える仕組みとなっている。

『騎士団長殺し』は『ねじまき鳥クロニクル』とさまざまな面で似ている。前者が後者の解説書と言ってもいいかもしれない。別の人物で、別の設定で、同じことを書いていると言えなくもない。それはワンパターンだと言われるかもしれない。だがワンパターン結構。私はそのパターンをこよなく愛しているのだから。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』も『羊をめぐる冒険』も『ダンス・ダンス・ダンス』も『海辺のカフカ』も皆そのパターンだと思っている。それが好きなのだ。考えさせられ、励まされるのだ。わくわくするのだ。

ひとりの人間がそんなにいろんなことを言いたいわけがない。いろいろ言ってるとしたらそれにはあまり実はないのではないか。

それは癖というものなのかもしれないし、思想というものなのかもしれない。何でもいい。好きな作品が読めて私はとてもうれしい。


#騎士団長殺し #村上春樹 #読書 #雑文 #日記



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