雑文 #286 池袋で即興で
金曜の夜、池袋にて、石若駿さんと岸田繁さんの即興セッションを観た。
貴重なものを観られたと思う。席は5列目で、石若さんのドラム側だった。
知らないうちに再開発されていた池袋東口の一角。そこの「東京建物Brillia HALL」にて、石若さんがプレゼンターとなるイベントが2日間行われ、その最初のゲストが岸田さんだったのだ。
私は例によって食欲がなく、出掛けたくなく、でもライブ中にお腹が鳴ったりしたら恥ずかしいからコンビニのサンドイッチをホールの前の広場にひとり座り、流し込んだ。無理矢理押し込んでるからサンドイッチがぼそぼそする。
早めに着いてしまってもやることがないので席に着いていた。ステージが近い。ちょっと取りすました感じの会場。すでに機材がセットされており、向かって左奥に赤いストラトキャスターが佇んでいた。
私は岸田さんの弾くそのストラトキャスターの音色が大好きなのだ。いや、まさか、数あるギターの中からそれを選んでくれたのか?胸が高鳴る。
開始の挨拶もなく、19時の10分か15分くらい前、石若さんと岸田さんがステージに出てくる。え!私にとってはビッグ・サプライズ。そのままぬるりとセッションへ。そそそんなー。素敵すぎる始まり。
ゆったりとした音の確かめ合いから、いよいよ本番へ。音の波が繰り広げられる。
ここ数年くるりで叩いている石若さんだから、息が合っている。アイディアとアイディアの掛け合い。このライブのチケットを取ったときは、くるりの曲を演るのかなと漠然と思ってた。即興って。私は歌のない演奏も大好きだから、堪能した。
とは言え歌もあった。石若さんの好きな、八木重吉さんという詩人(だったと思います)の詩を岸田さんが時折歌にしたのだ。言葉はよく覚えていないが、秋の風景が浮かんだ。静かで、遠くまで見渡せるような。少し哀くて、伸びやかな。
私が好きな赤いストラトキャスターは、さまざまな顔を見せてくれた。演奏は激しくなったり優しくなったり。即興だからスリリングかと思いきや、妙な安心感もあった。演者同士が心底楽しんでいたからだと思う。
好きな音を覚えていたいけれど、儚く消えていく。岸田さんの赤いストラトは、やはり色っぽかった。時々泣いたし、時々笑った。
あっという間に岸田さんの出番が終わった。心はふわふわ。
次に出演したMIZというデュオも実に心地良い音楽を奏でてくれた。
最後のHIMI+マーティ・ホロビックも、個性が高く伸びやかな演奏。
石若さんのドラムは変幻自在。ドラム以外にも木琴などのセットがあり、ビートを刻むのはもちろん、自身でメロディも奏でていた。メロディアスなドラム。
気づくとライブは終わってた。
コンビニのサンドイッチでぼそぼそだった私の心は、艶めいていた。
ありがとう、石若さん。池袋の夜。