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雑文 #199 郷愁
父と会った。
私は8月の間、どこか気にかけてた。気にかけてたけど会えなかった。
たぶん、8月の初め頃やたら両輪の夢をみたのは、母の入院があってのことだろう。
父には、会おうと思えばすぐに会えたけど、体調悪く元気のない自分を見せたくなかった。
それに気を遣うのが億劫だった。
今日はわりと余裕があり、ふと時間ができたから会いに行って、父も喜んでくれたのでよかった。
8月半ばくらいからずっと、秋田のことを思っていた。
たぶん、帰省シーズンということが大きいのだろう。
コロナは関係なく、私には帰省できる家はなくなっており、寄る辺がないのにやたら故郷が懐かしい。
去年の8月に帰省して、友だちに会ったりかつての職場を訪れたり温泉でくつろいだりしたことを、丁寧に思い出したりしていた。
それはたったの2泊3日だったのに、私の心はだいぶ掃除されたのだった。
秋田での生活が人生のほとんどである両親は、口には出さないけれど故郷へ帰れないことをどう思っているのだろう。
案外私ほど悼んでいないのだろうか。
ひとの気持ちというのは、こればかりは測れないからわからない。
帰りたいとか帰れないとか言う以前に、とにかく目の前の生活で精一杯である。
だけど、ふと時間ができたときに、故郷というのは心に入ってくる。
とくに夏から秋にかけては、秋田は美しい。
個人的な想いもあるんだろうけれど、私にはたくさんの宝があるのだ。
そのときは宝だと気づかなかったことも、時を経たらいぶし銀みたいな価値を増すのだ。
あの景色、あの体験。
いろんな記憶のかけらが、プリズムみたいに私に迫ってくる。
これが郷愁というものなのか。
だとしたら、郷愁は、けっこう痛い。
痛いけど、どこか気持ちがいい。