【掌編小説】もみじ饅頭
「ご検討の程、どうぞよろしくお願いいたします。失礼いたします♪」
あ~、疲れた! あ~、しんど! 今日の商談は、ほんっっっと、疲れたぁ~~~ッッッ!!!
商談先を出て、夕暮れ手前の街並みを、最寄りの駅へと向かう。
ちょっと甘いものが食べたくなって来た。和菓子にしようか、洋菓子にしようか? 喫茶店で、ホッと一息つきたいが、時間もない。駅の売店で、缶コーヒーと何か買うとするか。
公園の横を通り過ぎる。
「あ~、紅葉が色づいて、秋だね~♪」
彩り豊かな紅葉が、しばし疲れを癒してくれる。
「よし、もみじ饅頭にしよっ!」
決まり! 電車を待つ間、缶コーヒー&もみじ饅頭で、しばし休憩! あ~、久しぶりだな~、もみじ饅頭♪
駅に着き、売店へ直行。
「すいません!」
「はい、いらっしゃいませ♪」
「この缶コーヒーと、もみじ饅頭一つ下さい♪」
「あいよ! あ、お客さん、ラッキーですね!」
「えっ、何がです?」
「今日は、コレよく売れましてね、ちょうどお客さんのでラストですわ♪」
「あ、そうですか!」
「一歩遅かったら売り切れでしたね!」
「あ~、よかった~♪ もう、口の中が、もみじ饅頭になってたんですよ~♪」
「そうですか! そりゃ~、よかった! そう言って頂けると、あっしもうれしいでさぁ~♪ ハッハッハ! はい、どうぞ! 『もみじマン10』! ブックカバー付けますか?」
「はい、お願いします♪」
……って、えっ?!
あれっ?!
おいおい! おやっさん、大人気ヒーロー漫画『もみじマン』の10巻を用意してくれてるよ!
おいおいおいおい、缶コーヒー飲みながら、『もみじマン10』の世界に、ドップリ浸かりたいんじゃなくて、甘いもので胃袋を満たしたいんだけどぉ~~~ッッッ!!! お~い! おやっさ~~~んッッッ!!!
……って、心の中で叫びながら、せっかくノリノリだったこのおやっさんとの空気も壊したくないし~……、ん~……、あ~……、あ~~~ぁ、僕は言い出せなかった。
しょうがない。胃袋を満たすのは諦めよう。せっかくだし、『もみじマン10』を読んで、心を満たそう!
僕は読み始めた。
そして、気づいた……。
「1巻~9巻までの話の流れが分からへんから、心も満たされへんやないか~い!」
がんばれ! 負けるな! もみじマン!