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元ホームレスで作る『生笑一座』の語りから見えたこと01 -「助けて」が言えない社会
先日、『抱樸』の『生笑一座』をお招きした講演会に参加した。
抱樸は、北九州を拠点とするホームレス支援の団体で、もう30年も活動をしている。そこの理事長を務められる奥田知志さんとは、ゆずりはのご縁で何度かお話を聞いたことがある。そしていつも、それまでなかった視点を投げかけてくれる。
『生笑一座』は元ホームレスの人たちで作る一座で、名前の由来は「生きてさえいればいつか笑える日がくる」一座、というところからくる。奥田さんの言葉を借りれば、「子どもたちを死に渡さないためのプロジェクトであり、共に生きるための一座です」とある。小学校や中学校からの依頼で「ホームレス」についての授業をするのだという。
いつか改めて奥田さんたちの活動は取材させていただきたいと願っているが、せっかくなので、伺ったことをここでメモ的に残しておきたいと思う。
まずは奥田さんの講演から。
子どもの自殺の理由のNO.1は
冒頭で、「子どもの自殺の一番の理由はなんだと思いますか?」という問いかけがあった。これは数日前に発表されたニュースを見ていた人もいるはずだ。
文部科学省は毎年度、調査結果を公表している。資料はこちら。
子どもたちの自殺は過去最多に上る。そして自殺の一番の理由は、「不明」がもっとも多く、約60%を占める。
(文部科学省資料より抜粋)
つまり、子どもの大半が、周囲には理由もわからず、予兆もなく、「突然死ぬ」。
これについて奥田さんは、「助けてが言えない」ことを指摘する。それはなぜか。「大人が『助けて』を言わないからです」
大人が「助けて」を言わない社会
「自己責任、迷惑をかけない、そういう人間が、イコール『立派な大人、立派な社会人』だと、思い込まされてきたわけです。でもこれはウソです。私たちは誰しも人に助けられ、支えられて生きてきた」
かつて、進化とは、より良く、より強く、より優れたものとなることだとされてきた。しかしこれは「男性目線の進化論だ」と奥田さんは言う。
「人間と猿の一番の違いは何か。それは火を使うこと、そして二足歩行。デラウェア大学のK.R. ローゼンバーグ博士は、二足歩行によって女性は一人で出産できなくなった、超難産になったと言うんですね。だからこそ誰かに助けてもらうようになったと。それが『進化』だと言うんです。『男性の作った進化論を、女性の進化論に書き換えたい!』っていうんですよ(笑)」
本来、人間は一人で完結できない生き物だ。誰かを助け、助けられながら生きていくのが当たり前の生き物なのだ、という前提に立つ。
リーマンショックで若者がホームレスに現れたころ、奥田さんは、「やっぱり、一度路上になってしまうと、ちゃんとするって、難しいんだよ。だから、家族がいるのなら…と声をかけた」という。そこで彼らから出てきたのは「これ以上、親に迷惑をかけられない。もうちょっと自分がちゃんとしたら帰る」「甘えるな。お前が努力しないからホームレスなんかになったんだろうと言われるから帰れない」などの言葉だった。
「自分の弱さを出せるか。『弱さを出さない弱さ』が一番難儀なんです」
「助けて」と言える社会。これが困窮者支援の目標であり、持続可能性のある社会だと奥田さんは言う。
川崎通り魔と埼玉元次官息子刺殺、2つの事件の共通点
最近起こった2つの事件、川崎の通り魔事件と、埼玉の元事務次官による息子刺殺事件も取り上げられた。
報道で注目されたのは、「長期のひきこもり」「社会的孤立」「生い立ち」だ。川崎で子どもと大人18人が殺傷される事件を受け、同じようなことがあってはいけないと自らの息子を殺めたのが埼玉の事件。明らかに川崎の事件が埼玉の事件の引き金となった。
「ひきこもり」の人の数は、内閣府の調査によると、推定115万4千人。(15-39歳 54万1千人、40-64歳 61万3千人) 中高年の、長期のひきこもりの数が若年層のそれを超えたことでも話題となった。
内閣府の調査はこちら。
孤立ーーその、2つの孤立
ひきこもりには、本人の孤立と共に、家族の孤立もある。
「元事務次官という立場の人であれば、制度の知識や、助けてくれる人の存在は知っていたでしょう。でも、この元事務次官の前任者はインタビューで『元事務次官に子どもがいたとは知らなかった』と語っています。家族の存在を同じ省庁の前任者が知らない、これは驚きでした」
助けてくれる機関や制度を知っていたとしても、助けを求めることはしなかった、またはできなかった、ということか。家族の問題だから、家族の中で解決しよう、そう、思っていたのだろうか。
「孤立には2つあります。まず、身寄りがない”自然的孤立”。そして、身寄りはあるが社会がない”社会的孤立”です」
「事件の背景として、常態化した『自己責任論社会』があるでしょう。”自己責任”、”身内の責任”の強調です。これがこの30年、徹底されてきたと思います」
父親は「周囲に迷惑をかけてはいけないと思って刺した」と供述している。「『迷惑は悪』という考えが、孤立を助長するんです。これは、自己責任社会の道徳となっています」
「ひきこもりは日本独自の現象」
「ひきこもりに詳しい、精神科医の斎藤環さんとお話ししたんですが、『引きこもりは日本独自の現象ですよ』と言うんです。何が独自か、わかりますか? ”家族が引き受け続けていること”がです」
奥田さんは、世界で通じる日本語3つ、知ってますか?と問いかけ、続いて、「津波(TSUNAMI)」「過労死(KAROSHI)」「ひきこもり(HIKIKOMORI)」ですよと笑う。
日本は、家族の弱体化にもかかわらず、身内の責任とする。家族「だけ」が問題を引き受け、社会が引き受ける仕組みがない。
「事件は悲劇であり、社会の敗北です。川崎も埼玉も、両者の共通点は『社会がない』こと=『自己責任』です」
「ひきこもり者=サバイバー」という視点
前述の内閣府の調査から、ひきこもりになったきっかけを引いてみる。
(内閣府の資料より抜粋)
退職36%、人間関係21%、病気21%、職場19%という結果だ。これは「自殺の要因と重なる」と奥田さん。
「つまり、自殺につながりうる状況で、彼らは『生きのびた』という事実をまず評価しないといけないんです。彼らはサバイバーで、すごい、よく生きたねというところから、なぜ始めないのか」
「ひきこもりは自分を守る”防衛手段”であり、家(家族)はいのちを守る”安全基地”です。引き受ける家族は大変だけれど、そこがなければ死んでいたかもしれない」
「引きこもりは問題だ」と無理やり家から出そうとしたり、就職させようとするのは本人から「安全基地」を奪うことになる。何が「問題」なのか、冷静に考えなければいけない。
安心してひきこもれる第三の場所を
家族は一生懸命だ。子どもを愛しているからこそ、家族でなんとかしようと思うのかもしれない。しかし「家族は、『愛してる』からこそ、『許せない』になる」と奥田さんは言う。
「親が丸抱えする状況を、まずは止める。本人が『安心してひきこもれるもう一つの場所』を確保するんです。『家庭内ひきこもり』から、『社会的ひきこもり』へシフトする。これは、居住支援をベースとした”安全基地”の確保という考えです」
「そのうえで、親は親にしかできないことをやったらいいんです。ハグしてねぎらうとかね。家族機能を社会が分担していくんです。これは今、国と話し合っています」
(02に続きます。近日、掲載予定です)
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補足 2019.10.20 16:00
ちなみに、子どもの自殺については、厚生労働省の発表もある。こちらは文科省の調査結果と異なっている。
調査結果はこちら。自殺対策白書に掲載されている。