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モモコのゴールデン街日誌:観光の「中の人」の寂しさ

よく観光地に行くと「No Photo」と書かれている張り紙を目にする。

もちろんそれは「買いもせず写真だけで済ますなよ」とか、ましてや「コピー商品を作られては商売上がったりなんだよ」とか、「他の客の邪魔になるだろう」とか、現実的な理由があるからだろう。

しかし、こうして観光地を内側から見ているうちになんとなく、それは単に店の人にとって「寂しいから」かもしれない、とも思えてきた。

「寂しくなるから写真だけ撮って行かないで」という心境なのではないだろうか。

遠距離恋愛をしている恋人が去って行く瞬間のようと言ってもいいし、滅多に実家に帰ってこない息子に「次はいつ来るの」と言いたくなるような気持ちと言ってもいい。

いや、それともちょっと違うかもしれない。

私は今、とにかくわけのわからないことを説明しようとしている。

だけど「観光地の中の人」特有の感情を体験して理解してしまったのだから仕方がない。

どう言えばいいか分からないが、とりあえず続けて書いてみようと思う。

もちろん関係ない人同士なのだから、寂しいもなにもそれで良しなのだ。

しかし、初めて来た場所に目を輝かせている客のテンションというものを、とりあえず荒っぽくまとめるとするなら、それもひとつの愛なのだ。愛が確実に生まれている。

そして、客にそんな愛を提供する「中の人」にも、そこで待っているという愛があるのである。

お互いに愛があるのにも関わらず、人間同士の関係性がないということは、寂しいことだ。

つまり、写真を撮るだけでは関係性は生まれないのだ。

お金を払って物を買う、というやり取りさえあれば、それは擬似的に、一過性であったとしても、関係性が生まれる。大げさにいうと、それは愛のための儀式と言ってもいいだろう。

と、自分でも意味があるのかないのか分からないことを書いたが、とにかく昨年はほうっておいても観光客がたくさん来る状態となった。

だから以前のようにインスタグラムにモモコのゴールデン街日誌をコツコツと書いたり、知り合いに来てね来てね!と宣伝する必要もなくなったのだ。

しかしながら、私は観光地の中にいることを寂しく感じていた。

知り合いや常連客から、

「さっき前を通ったけどいっぱいで入れなかったよ」 「繁盛してていいね」

そう言われるたび、なんだか寂しかったのである。

しかし商売は商売なのだから、来るお客を選ぶことはできない。捌いていくしかない。だけど、この観光地の中の人独特の寂しさもなんとかしたかった。

昨年の夏くらいから、これだけ観光客が来るのならと、ベーシストのシマジさんを誘って「モモコのシティポップ箱バンド」を始めた。

これは、10人も座ればいっぱいになる、あの小さな店の中である。どの席に座っても本物のベースの演奏を真横に見ることが出来るマイクロライブハウスだ。そして、さっきハイボールを作ってくれたカウンターの中のお姉さんが、いきなりマイクを持って歌い出す、というシュールな光景のエンターテイメント商品である。

商品のメニュー、すなわち持ち歌の数は、有名なシティポップチューンのわずか7、8曲ほどである。お客さんはたいていお酒を2杯も飲んだら入れ替わるので、逆にあまりたくさんの曲を演奏することも出来ないためだ。

「商魂たくましい」というほどの商才は私にはないが、始める前から、きっと投げ銭チップは弾んでくれるはずだということは確信していた。

日本独特の文化には慣れないせいか、チャージがかかることをいうと、渋い顔をする欧米人が多いことも分かっていた。

しかし、彼らは結果主義なのだろうか?そこにいて雰囲気や会話を楽しめたと思ったら、迷わずチップは弾んでくれる。

通りに人が増え始める夜の7時頃、誰もいない店の中で、シマジさんと私が練習をしていると、道に漏れる音を聞いたお客が入ってくる。

なんとなく席が空いてそうな店だから、ではなく、音楽が好きな人が率先して入ってきてくれるようになった。

音漏れは、中の人である私からの求愛行動なのだ。

音に誘われて入ってきたお客は、もう見知らぬ観光客ではない。儀式を共に行う同志だ。

ちなみに店には入らず、ドアの外から断りもなく、写真だけ撮っていく客も多いが、写真は、ばんばん撮っても構わないことにしている。ケチなことはいわない。音楽的な愛の儀式を楽しむ私は、もうちっとも寂しいとは感じないからだ。

椎茸売る山の少女の日曜日 夜桃

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モモコのゴールデン街ソワレの新春初営業日は、1月4日(土)です♡
シマジさんとの箱バンは夜8時頃からスタートします♪ぜひ遊びに来てね。

同じく1月4日(土)、ソワレと同じ3番街にある「ジャンジュネ」というお店のカウンターにも入ります♡そちらはお昼の1時から。

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