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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #104 Ryusei Side
毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。さとみは琉生と同棲しているが、このまま結婚していいのか悩み中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。琉生と一時期付き合っていた由衣は、上司の斎藤と不倫中。琉生は斎藤とプレゼンのため出張先に来ている。プレゼンも無事終わり、取引先と食事会に来ている。
取引先との食事会といっても、こじんまりとしたものだった。
先程の営業担当者ふたりに、決裁者の上司、そして斎藤部長と俺。
個室になっている和食店は、地元のビジネスマンで賑わっていた。
向こうの上司の人が話を振ってきた。
「斎藤さんも敏腕でお忙しいと聞いてます」
「いやあ、私もまだまだですよ。彼が居てくれるので助かってます」
“彼”が俺だと気がつくのに、数秒かかった。
「ぼ、僕のほうこそまだまだ斎藤部長の下で勉強させていただいてるばかりで」
あまり客先で褒められるという場面がないので、スマートな返しが出来ず、自己嫌悪に陥った。
「かなり遅い時間にメールしても、直ぐご返信いただけるので、我々は助かってますが。奥様には何か言われません?」
営業アシスタントの若い女性が、朗らかに斎藤部長へ尋ねる。
「ええ、妻も同じ会社で仕事には理解がありますから」
「奥様もお仕事続けられているんですか?」
「最近、育休が明けて、復帰したんですよ」
「へ〜そうなんですね!私が斎藤さんの奥さんだったら、仕事には復帰せずに専業主婦でお家のことするのに〜」
酔ってるのだろうか。営業アシスタントの女性の、斎藤部長に対する下世話に接するところに嫌悪感を覚える。
俺は気になって斎藤部長をチラっと見たが、なんてことはない顔で、普通に飲んでいる。
俺とは場数が違うのだから、こんな女性にも慣れているんだろう。
取引先の営業の男性も、女性が仕事と関係ないことを話しだしたので、まずいと思ったのかもしれない。
「お二方、そろそろ新幹線の時間が…」
「そうですね」
それがきっかけで、会はお開きになった。
店の前で別れ際に、斎藤部長が名刺入れから1枚紙を出した。
「こんなこともやっているので、何かあればぜひ」
取引先の上司がそれを見て
「御社が副業OKになったと噂では聞いていたが。斎藤さんもですか。有能な方は手広くされてるんですね」
と言った。
さっきの女性アシスタントが
「私にも下さい」
とねだったが
「そちらを、見ていただければ」
とにこやかに返しただけだった。
副業?
取引先の人たちと別れ、駅へ向かう間に斎藤部長に尋ねた。
「斎藤部長も副業始めたんですか」
「ああ。琉生には言ってなかったな。友達が始めた会社を手伝うことになってね」
俺にも名刺をくれた。
副社長という肩書きがついている。
「凄いですね」
「二人しかいない会社だよ」
斎藤部長が笑う。
「社長の友達はSEで、俺は営業。彼の力を買っているから、手伝いたいのさ」
「そんな世界もあるんですね」
就職してまだ3年目の俺には、考えられない。
「秘書は由衣に頼んでるんだけど」
「えっ、マジっすか」
俺は驚き過ぎて、言葉が乱れた。
「断られたけどね」
クスクスと、斎藤部長が笑っている。
「ま、琉生もそんなことが出来るってことさ。これからの時代一つ会社に縛られているのはナンセンスだ。有能なんだから、もっと羽ばたいてもいいんだぞ」
「い、いやいや、そんな、、、」
そんな会話をしながら新幹線に乗り込む。
帰りの車両は別だった。
「じゃあ。降りる駅は同じだけど待ったりしなくていいからな」
斎藤部長はそう言うと、喫煙ルームに近い車両へ消えていった。
副業。
それを聞いて思い浮かんだのは、さとみのフラワーアレンジメントの腕だ。
さとみのクリエイティブな才能を活かして、俺が売るというのはアリなのかもしれない。
さとみは大大的に売り出されるのはイヤだろうから、作り手に徹してもらう。
面白そうだ。
帰ったら話してみよう。
俺は寝るつもりだった新幹線の中で、さとみとフラワーアレンジメントの仕事を形に出来ないか、考え始めていた。
*** 次回更新は8月6日(金)21時ごろの予定です ***
雨宮よりあとがき:キャー!月、水、の予約をしたつもりが下書きになっていまして。
ずれ込んでおります。
そして、なかなか15時は読みにくいのでは?と思い、更新時間を夜の21時に変更しました。
宜しくお願いします(^o^)
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