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初恋の果実

どうしても彼の声が聞きたくて、何度目かの無言電話。数年振りの彼の声。身体は死体みたいに硬直してるのに心臓のポンプが壊れて加速が止まらない。あの頃の自分を想うと喉がカラカラになってしまう病。人生で一度しか味わう事が許されない初恋の果実は二十歳前後が食べ頃じゃないかしら。 #140字小説
(2024年10月14日投稿)

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大学時代に交際した彼。期間は一年間と短かったけれど、私にとっては人生初のいわゆる「ガチ恋」だった。彼が死んでしまった夢を見た夜には声をあげて大泣きしてしまい、驚いた母親が部屋に飛び込んできた、なんていうこともあった。

自分で言うのも何だけれど、私、比較的整った顔立ちをしているし、そこそこ美人なのではないかと思う。高校の時に女友達から「アイドルというよりセクシー女優って感じ」と言われたのを覚えている。ただ、中学や高校でも数人の男子からアプローチを受けていたし、好意を持った相手とデートもした。

二十歳の時、めぐり逢った彼は、私にとって「スペシャル」だった。何故だか理由は今も分からない。お気に入りの一枚の絵を見つけてしまった感覚。分析して、さらに文章化などできたら人は恋愛などしなくなるのだろう。芸術と一緒だ。

これまでの恋愛モドキでは私が主導権を握ってきたのに、今は自ら望んで彼に手綱を渡している。こんなことは初めてだった。

課題やレポートそっちのけで彼の為にセーターを編んだ。まさか自分がそんな自爆女子と呼んで馬鹿にしていた人間になってしまうなんて信じられなかった。大学に行って、気が付くと私の編んだセーターを着ている彼の姿を探してしまっている。教室の窓ガラスに映ったそんな自分の姿を見つけると、可愛くも思えた。

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