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『響け! ユーフォニアム』シーズン3 第12話の原作改変が意味するところ

物語のクライマックスとなった第12話に原作からの大きな改変があったことを知り、納得できたことがある。この改変を強く主張したとされる脚本担当者が本作で伝えたかったメッセージとは何か。


骨格となる2本のストーリー

アニメ『響け! ユーフォニアム』は実に長い物語だったので、そこには様々なストーリー展開があったが、私が見るところでは主題として描かれたのは久美子と麗奈による「バディとの友情」であり、そこに吹奏楽部のあり方を描く「組織の中で」が背景として位置づけられていた。
特にシーズン3は「組織の中で」が色濃かったのは前回エントリーで取り上げたとおりだ。

シリーズ完結編のシーズン3、しかも最大のクライマックスとなった第12話で原作から大きな内容改変があったことを脚本担当の花田十輝氏がツイートしている。

この原作改変は賛否両論を巻き起こしているが、私はアニメ派でもあるので改変には賛成。というより、この物語が完結するためにはアニメ版のストーリー展開しかありえなかったとまで考えている。つまり、この展開だったからこそ、物語の主題「バディとの友情」の完全なる完成が確認できたのだと。

シーズン1から振り返る

『響け! ユーフォニアム』の中で久美子と麗奈がどのように友情をはぐくんできたのか、シーズン1から振り返ってみると、

  • 2人は中学の同級生。吹奏楽大会で「ダメ金」を取り、麗奈が「悔しくて死にそう」と泣くところから物語がスタート

  • 2人は同じ高校へ進むが当初は疎遠。久美子は入学式から「2週間も(麗奈と)話せてない」

  • 2人が近づくきっかけは指導者の滝先生の話題。指導力がどうとか、先生のことどう思う?とか、徐々に距離が近づく

  • ターニングポイントになった第8話、祭りの夜に2人はお互いを名前で呼び合う仲になる。麗奈の「愛の告白」発言に魂を撃ち抜かれた人も多いだろう

  • 第10話でトランペットのソロを決める決戦オーディションが行われる。ここで、麗奈を支える不可欠な存在としての久美子が描かれる。今度は久美子から「愛の告白だから」発言がある。ズキューン!

  • そして第12話、「麗奈みたいに特別になりたい」と語る久美子の覚悟を麗奈が受け取り、久美子は「悔しくて死にそう」とかつての麗奈の気持ちを真に理解する。ここに二人の友情が完成する

その後、シーズン2、3を通じて多少の、ときには「部長失格ね」などのそれなりに大きな紆余曲折を交えつつも、2人の友情は変わらずに続いてきた。

アニメシーズン3・第9話より

しかし、ここで長かった物語が完結するにあたり、主題の「バディとの友情」をもう一段高いレベルへ昇華させる必要性があると脚本家の花田氏は考えたのだと思う。
その素材となったのが、全国大会で誰がユーフォニアムのソリストになるかだ。これが久美子と真由の対決に麗奈が関わる新たなドラマが必要になった理由だ。

原作とアニメの相違点

『響け! ユーフォニアム』が原作とアニメ(主に第12話)でどのように異なっているのか様々な媒体に情報が出ているが、主要点をまとめると、

  • 大会ごとにオーディションを行うのは原作とアニメで変わらず

  • 関西大会の時点でユーフォのソリストが黒江真由になった点も変わらず

  • 原作では、全国大会のユーフォのソリストを決める再オーディションは存在せず、校内での個別オーディションのみ

  • その校内オーディションでユーフォのソリストの座を久美子が奪い返す

  • そのため、公開オーディションに関わる内容はすべてアニメオリジナル

  • つまり、公開オーディションは奏者がわからないようにブラインド形式にすること

  • 公開オーディション前の久美子と真由の会話

  • 公開オーディションが同票となり、麗奈に最終判断がゆだねられる点

  • オーディション後の久美子の演説

  • その前後の久美子と奏の会話

  • その後の久美子と麗奈の大吉山での会話

などなど、中盤以降はアニメオリジナルの内容が多い。(ただし、伝聞のため不正確な箇所はあると思う)ここまでくると、第12話は完全オリジナル新作と呼ぶべき内容だ。
これだけの内容の違い、特に全国大会のソリストが久美子か真由かでは大違いであり、主人公・久美子の夢破れる結果に原作勢は阿鼻叫喚の第12話だったと思う。

それでもなお、これほどのストーリー改変を意図した脚本家の思いは、第12話に濃厚に表現されていると私は感じる。それはストーリーテリングにおける、登場人物の性格描写と実像の違いだ。

究極の友情表現

参考文献(『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』)によると、登場人物の性格描写とは、

  • ある人物について外観からわかること

  • 年齢や性別、話し方や身振り、洋服の好み

  • 学歴や職業、価値観や日頃の主張

などだとされる。登場人物はこうした様々な特徴の組み合わせで形作られている。
しかし、こうした性格描写と、そのキャラクターが本当はどんな人間なのかという実像は異なるというのが著者の主張だ。

人間の実像は、緊迫した状況で行う数々の選択によって明らかになる。---重圧がかかるほど、深い部分が明らかになり、おこなう選択はその人物の本質に迫るものとなる。(中略)
その人物の真の姿はどんなものだろうか。…勇敢なのか、臆病なのか。真実を知る方法はただひとつ。自分の思いを満たすために、追いつめられた状況下でどのような選択をするかをみることだ。

『ストーリー』(フィルムアート社) ロバート・マッキー著より

『響け! ユーフォニアム』シーズン3の第12話で描かれたのがまさしくこれだ。

全国大会金賞の高い目標を掲げ、実力第一主義でこれまでにも多くの犠牲を払いながら幹部として吹奏楽部を率いてきた久美子と麗奈。その全国大会では2人でソリを吹きたいという親友同士の熱い思いもある。

アニメシーズン3・第12話より

その思いを満たすための判断が麗奈にゆだねられた。麗奈は追いつめられた。全国大会金賞、自分の夢、久美子の夢、2人の夢、どれがかなう?どれがかなわない? 私の決断を久美子はどう受け取る? 久美子はどう反応する? こうした緊迫した状況だからこそ、麗奈の真の姿が浮かび上がる。

久美子も同様だ。再オーディションの演奏は不完全な出来だった。久美子は追いつめられた。麗奈はどちらを選択する? 私の夢は? 2人の夢はどうなる? 麗奈の判断を自分はどう感じる? そのとき自分はどんな行動をとる? こうした緊迫した状況だからこそ、久美子の真の姿が浮かび上がる。

わからないわけないでしょ、久美子の音を

麗奈はきっと聞き分ける

麗奈は最後まで貫いたんだよ、私は何よりそれがうれしい

最後は麗奈と吹きたかった

アニメシーズン3・第12話より

久美子と麗奈、2人の思いは一致していた。全国大会金賞のために実力第一主義を貫き通すと。それにより、久美子のソリの夢は破れる。2人でソリを吹く夢もかなわない。しかし、それでも2人の友情は揺るがない。大きな犠牲を伴う決断だが、それでも二人の友情は強固なのだと。

アニメシーズン3・第12話より

追いつめられ、緊迫した状況を乗り越えたことで久美子と麗奈の友情は一段高いレベルへと昇華した。
そして、シーズン1から紡いできた2つのストーリー「バディとの友情」と「組織の中で」がこのクライマックスで1本のストーリーへと融合した。
完璧だ!完璧なシナリオだ!

ストーリーテリングの原則を忠実になぞりながらも、これまでのどんな作品とも異なる完全なオリジナリティを備えたストーリー、それがこの第12話だったと私は評価する。そして、全国大会の結果はみなさんご存じの通りで、北宇治高校吹奏楽部の物語を見守ってきた私たちの思いも昇華した。

長かった物語の締めくくりにふさわしいシーズン3の第12話と最終話だったと思う。原作改変については色々と思うところがあるファンも多いだろうが、私はこのストーリー展開だからこそ、この作品は歴史的な名作になったと言えると思う。


※注:「バディとの友情」がどんな物語なのかは下記エントリーなどをご参照いただきたい。

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