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『全修。』第4話感想:エルフであるがゆえの悲哀
ここ3週同じパターンだが、今回は『全修。』の世界観設定担当者のインタビューが公開されている。その内容を紹介し、第4話の感想と行きたい。
(本作第4話までのネタバレを含みます)
※前回の内容はこちら
世界観設定担当インタビュー
監督インタビューとは違って今回も内容が薄いが、個人的な関心点は次の2つ。
辻野芳輝さん(以下、辻野):僕が参加した頃にはまだストーリーが決まっておらず、“腐ったハマグリ弁当でアニメの世界に転生した天才アニメーターが不思議なタップの力でさまざまなスタイルのアニメ世界の敵と戦うラブコメ!”だった
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辻野:5話、6話では前半の終わりに相応しく、強敵が現れます。ナツ子たちはその敵にどう立ち向かうか、そして新しい仲間ジャスティスの活躍に注目! 力作です。
ストーリーが決まる前からハマグリ弁当の設定は決まっていたということなので、下記エントリーでも取り上げたが、やはりナツ子が食べたのが単なる弁当ではなく「ハマグリ弁当」だったことには意味があるようだ。
詳細は上記内容をご参照いただきたいが、ハマグリが『滅びゆく物語』の世界への転生の鍵となっており、今後のストーリー展開でも重要な役割を果たすことだろう。
過去改変への抵抗感
さて、「第5話、6話で強敵登場」について少し気になることがある。ここで中ボス登場のようだが、この展開は映画『滅びゆく物語』ではどこにあたるのだろう?
『滅びゆく物語』については、
現実世界で公開された映画のストーリー展開
ナツ子が転生した現在の『全修。』のストーリー展開
の2つが存在する。ナツ子が持っている知識は「1」で、これは確定した事実だ。
一方で、ナツ子が入り込んで以降、『滅びゆく物語』の世界の流れは映画の内容から乖離し始めている(ユニオは生きているし、農作物は守られたし、デステニーのキャラは変化しそうだ)
これから登場する中ボスは、映画ではデステニーが死亡した展開にあたるような気がする。問題はここまでの『全修。』の展開ではナツ子が映画の知識を小出しにしているため、「実はこの後、こんな展開が」というナツ子の説明が、本来は確定した映画内容を述べているにも関わらず視聴者である我々には後から取って付けたように感じられてしまうことだ。「『北斗の拳』症候群」とでも呼べばいいのだろうか、知らんけど。
古い例えで恐縮だが、「実は過去にこんなことがあった」という展開が『北斗の拳』で頻繁に用いられた。あれほど人気を誇った作品が後半以降で急激に失速した大きな原因がこれだと私は感じている。
「過去にこんなことが」と説明されても、読者としては「嘘つけ! それ、今考えたことだろう!?」という感想しか出てこなくなっていた。作品世界の過去の歴史が次々と改変されている印象だったのだ。
第4話もこの傾向があったし、『全修。』が完全にこうした状況に陥ってしまう前に、本来の映画『滅びゆく物語』がどんな展開を辿って、どんな結末を迎えたのか、早めに説明してしまうことが求められていると思う。ただし、やり方には工夫が必要で、脚本担当の腕の見せ所だ。
すっかり作風はコメディに
これは前回書いたが、第4話はタイトル『永遠。』から予想された通りのメメルン回で、永遠かのような人生を送るエルフならではの悲哀を背景とした展開だった。が、ちょっと安易な構成だったように感じる。
アニメに関心を持つ人にとって、エルフの原型は
『ロードス島戦記』のディードリッド
『ロード・オブ・ザ・リング』のアルウェン
『葬送のフリーレン』のフリーレン
などが代表例になると思う。元祖は『ロード・オブ・ザ・リング』のアルウェンで、エルフの設定はここを発端としているが、『全修。』のメメルンもこうしたイメージを踏襲している。
であれば、人間の生死にもっと超然としているか、死に目に会うのを避けるために単独行動をとるかすると思うのだが、メメルンの立ち位置は中途半端だ。まぁ、そこまでこだわるほどの設定ではないということなのかもしれない。
また今回は第1話で開示されてなかった新たな作品からキャラクターが召喚された。それに夢中になるメメルンはすっかりコメディ中のキャラだが、これはそのまま私たちアニメファンの象徴でもある。
ここまでの展開で『全修。』は、『滅びゆく物語』の世界でありながら全然滅びゆかないし、鬱展開はどこへやら、明るく朗らかで緩み切った雰囲気になってしまった。
そしてここから暗転だ。ついにラスボスと思われるあのキャラも登場し、次回以降で中ボスクラスの敵の登場も開示されている。
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ここから主人公・ナツ子とナインソルジャーの面々が苦境に陥る様子をどこまで描き切ることができるかが本作品の全体の完成度を左右するだろう。
個人的には、主人公を徹底的に苦境に落とせば落とすほど、その後の反撃の盛り上がりにつながると思うのだが、さてどうなることか。今後の展開を楽しみに待ちたい。
※参考情報