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【用語解説】ストーリーテリングの基本原則

人間が本能的に好む物語には多くの共通要素や典型がある。そして、その共通要素や典型から外れた作品は多少の注目を集めることはできても、多くの視聴者の賞賛を得ることは困難だ。
こう主張する『SAVE THE CATの法則』を主な参考文献とし、典型的な物語にはどんなジャンルがあり、どんな構造になっているのかについて、概略をここに記載した。
(随時追記予定)


ジャンル1:金の羊毛

主人公が何か(例えば、アルゴ探検隊の物語で主人公・イアソンが探していた「金の羊毛」など)を求めて「旅に出る」物語。ただし、文字通りの旅ではなく、日常と離れた場所であれば物語は成立する。

主人公は旅の中で様々な人物に出会う。そして最終的に求めていた何かを手に入れるかどうかに限らず、本当に重要なのは旅を通じた主人公の成長にある。

物語の基本的な要素は、1.道 2.チーム 3.報賞

代表例

映画:
『オズの魔法使』、『スター・ウォーズ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ガールズバンドクライ』、『ウマ娘 プリティーダービー』、『宇宙よりも遠い場所』、『BLUE GIANT』、『ガールズ&パンツァー』

ジャンル2:難題に直面した平凡な奴

無垢で平凡な主人公が望まないトラブルに巻き込まれる物語。そのトラブルは前触れなく突然発生し、渦中の主人公は生きるか死ぬかの試練に直面する。
物語の視聴者は自分がごく普通の人間だと思っているので、同じように平凡な主人公がそんな難題に巻き込まれると、ついつい同情してしまう心理がこの手の作品が受ける理由だ。

代表例

映画:
『ダイ・ハード』、『ターミネーター』、『タイタニック』、『シンドラーのリスト』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『ゾンビランドサガ』、『ゆるキャン△』

ジャンル3:バディとの友情

男同士、女同士、魚同士など、様々な「僕と親友(バディ)」の物語。当初、バディ同士はお互いに疎遠だったり反目しあったりしているが、物語の進展につれて徐々に相手を理解し、最終的にはお互いを必要不可欠な存在として認め合う。ただし、そこに至る前に一度バディ同士が決定的に決裂するパターンが定番。

代表例

映画:
『48時間』、『テルマ&ルイーズ』、『ファインディング・ニモ』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ガールズバンドクライ』、『響け! ユーフォニアム』、『リコリス・リコイル』、『ゆるキャン△』、『ウマ娘 プリティーダービー』
(ほぼ全部の作品を列挙することになりそうなので途中で省略。このジャンルを含まない作品の方が珍しいと思う)

ジャンル4:バカの勝利

表面的には単なるバカなまぬけ者に見えるが、実は最も賢い存在の主人公の物語。主人公は一見負け犬に見えるのでみんなに見下されているが、逆にそのおかげで最終的に光り輝く勝利を手に入れるチャンスに恵まれる。

物語の基本的な要素は、
1.一見するとバカのように見える主人公
2.主人公が直面する権力や体制
3.主人公の身近にいて、主人公の潜在能力に薄々気づいているが、主人公が成功するとは思っていないインサイダー

代表例

映画:
『フォレスト・ガンプ/一期一会』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『けいおん!』

ジャンル5:組織の中で

集団や組織、「ファミリー」についての物語。主人公は自分が属する組織に誇りを感じるが、一方で組織の中で生きることで自分らしさやアイデンティティを失う展開が典型的。

組織や集団を動かす根源には、狂気や自滅的なものがあることが描かれ、その狂気ゆえに、多数派の目的をかなえるために、少数派が犠牲になる。物語では組織の中に予期せぬ人物が現れ、集団の目的が実は欺瞞であることを暴く。

物語の基本的な要素は、1.グループ 2.選択 3.犠牲

代表例

映画:『ゴッド・ファーザー』、『フルメタル・ジャケット』『グッドフェローズ』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『響け! ユーフォニアム』、『リコリス・リコイル』

ジャンル6:スーパーヒーロー

超人的な力を持つ主人公の物語。主人公は素晴らしい能力や独創的な考え方をねたむ凡人と付き合わねばならず、それによって生じる様々な葛藤や苦悩を乗り越えて使命を果たす姿を描く。

物語の基本的な要素は、
1.主人公が持つスーパーパワー
2.主人公の宿敵、往々にして主人公を上回るかのような力を持つ
3.主人公の弱点、または主人公の能力を制限する呪い

代表例

映画:マーベルやDCのコミックを原作とする諸作品、『グラディエーター』や『ビューティフル・マインド』など

本ジャンルを含むアニメ作品(私見):
『リコリス・リコイル』

その他のジャンル

本ブログで取り上げてないので詳細は割愛するが、他にも下記のようなジャンルがある。

  • 家の中のモンスター

  • 魔法のランプ

  • 人生の節目

  • なぜやったのか?

典型的な登場人物

最も典型的なキャラクター

  • 「若くて明るいナイスガイ」タイプ

  • 「かわいい隣の女の子」タイプ

  • 「わんぱく小僧」もしくは「賢いやんちゃ坊主」タイプ

  • 「セクシーな女神」タイプ

  • 「セクシーな男」タイプ(上記の男性版)

上記に次ぐキャラクター

  • 「ちょっと訳ありセクシー美女」タイプ

  • 「愛すべき優男」タイプ

  • 「おどけた道化師」タイプ

  • 「賢き長老」タイプ

  • 「救出という任務を背負って、再び戦場に戻っていく負傷兵」タイプ

BS2(ブレイク・スナイダー・ビート・シート)

ハリウッドが製作する映画によくみられる典型的なストーリー構成のこと。『SAVE THE CATの法則』の著者ブレイク・スナイダーが考案した以下のフレームワークに多くの映画が当てはまるとされる。

  1. オープニングイメージ
    作品のスタイル、雰囲気、ジャンル、スケールを表現する箇所

  2. テーマの提示
    物語が何をテーマに展開していくのかを表現する箇所

  3. セットアップ
    物語の主人公やテーマ、目的を示し、主要な登場人物を紹介する箇所。登場キャラの特徴や、彼が抱えている課題や欠けている資質を示し、後に起きる問題の原因となる行動も提示される

  4. きっかけ
    物語が動き出す特徴的な瞬間のこと

  5. 悩みのとき
    主人公が物語のテーマに取り組む前に、不安を感じ、悩む箇所

  6. 第1ターニングポイント
    主人公が慣れ親しんだ古い世界から、未体験の新しい世界へ踏み出す箇所

  7. サブプロット
    主人公が踏み込んだ新しい世界を別の視点から紹介する箇所。ラブストーリーが採用されるパターンが多い

  8. お楽しみ
    視聴者に対するお約束を果たす箇所。映画の場合、ポスターや予告編で開示される情報はこの部分から採用されることが多い

  9. ミッドポイント
    主人公たちが一度見せかけの勝利を得る箇所、もしくは見せかけの敗北を喫する箇所。「すべてを失って」と対になる

  10. 迫りくる悪い奴ら
    成功を目指す主人公たちを逆境に追い落とす敵対勢力。人だけでなく物や現象のこともある

  11. すべてを失って
    クライマックスを前にして主人公たちが絶不調になる箇所(ハッピーエンドの物語の場合)「ミッドポイント」と対になる

  12. 心の闇
    絶不調に陥った主人公たちが悩み、葛藤する箇所

  13. 第2ターニングポイント
    葛藤の末に光明を見出し、主人公たちが逆転勝利の解決策を見つける箇所

  14. フィナーレ
    敵対勢力に勝利する箇所

  15. ファイナルイメージ
    物語の締めくくり。「オープニングイメージ」と対になり、物語を通じた主に主人公の変化が示される


出典・参考文献

上記の用語や概念は下記書籍に基づいている。(一部、出典での記述内容が不足、不十分に過ぎるところは、本ブログ著者の見解で独自に補っている場合がある)

映画の脚本術に関する書籍中心だが、映画以外の映像作品を鑑賞する場合にも大変参考になる内容ばかりだ。ぜひ一読をお勧めする。
私はこれらの書籍を読んで、映画やアニメの新たな楽しみ方を発見することができた。


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