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『ガールズ&パンツァー』主人公のキャラクター設計について(Part2)

前回のエントリーで『ガールズ&パンツァー』の主人公・西住みほの人物像が緻密に設計されていることの分析を試みた。今回はそれが作品中で具体的にどのように描かれていたのかを振り返ってみたい。

※前回のエントリーはこちら


五十鈴華との対比

『ガルパン』の主人公・西住みほと、彼女を取り巻くあんこうチームのメンバーの関係性を整理すると下図のようになる(前回の再掲)

上図に関するわかりやすい例が五十鈴との対比だ。『ガルパン』は、戦車を使った武道「戦車道」が華道や茶道と並んで大和撫子のたしなみとされている世界を舞台にしている。
華は華道「五十鈴流」の家元の娘で、転校してきた主人公・みほと真っ先に友人になった一人だ。

五十鈴華
(『ガルパン』TVシリーズ第4話より)

その五十鈴華は、

  • 母から「あなたの活ける花は五十鈴流そのものよ」と評されるほど流儀を守った華道を実践しているが

  • 「私はもっと力強い花を活けたい」と意思を伝え、流儀からの脱皮を志向し、葛藤している

  • その結果、母から五十鈴流を守れないなら「もううちの敷居はまたがないで」と勘当にもあたる言葉を投げつけられる

一方みほは、

  • 母から「西住流は勝つことを貴ぶ流派」「犠牲なくして勝利なし」と、流儀にそった行動をとらなかった前年度決勝戦の対応を非難される

  • その非難に対して主張したい思いがあるが、みほは家元である母に強く言い返せない(「でも、お母さん、」と言い淀んでしまう)

こうした対比の末、五十鈴華は戦車道全国大会の決勝戦を前に、あんこうチームの仲間を華道の展覧会に招待する。そこで展示された華の作品は母親から「五十鈴流とはまるで違う」と評されるものの、「あなたの新境地ね」と理解してもらえるものだった。
華は家元の娘でありがら流儀に固執することなく、自分の華道を探し求めて新境地にたどり着き、それを家元である母に認めてもらうことができた。
これがみほを力づけ、「私の戦車道」を見つけるきっかけの1つになっていくのだ。

『ガルパン』TVシリーズ第10話より

グループの会話の例

また、グループの会話にもそれぞれのキャラの役割がある。『ガルパン』TVシリーズ第5話で、戦車喫茶に行ったときの会話だ。

『ガルパン』TVシリーズ第5話より

この戦車喫茶であんこうチームの5人は物語最大のライバルであり、主人公・みほが以前所属していた黒森峰女学園の選手に遭遇する。少し長いが、そのシーンのセリフを一部書き起こした。

まほ 「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」
みほ 「...」
優花里「あの試合のみほさんの判断は間違っていませんでした
エリカ「部外者は口を出さないでほしいわね」
優花里「すみません」
(中略)
エリカ「1回戦はサンダース附属とあたるんでしょ。ぶざまな戦いをして西住流の名を汚さないことね」
沙織 「何よ、その言い方
華  「あまりにも失礼じゃ、
エリカ「あなたたちこそ戦車道に対して失礼じゃない。無名校のクセに。この大会はね。戦車道のイメージダウンになるような学校は参加しないのが暗黙のルールよ」
麻子 「強豪校が有利になるように示し合わせて作った暗黙のルールとやらで負けたら恥ずかしいな
沙織 「もしあんた達と戦ったら絶対負けないから」
エリカ「ふん、頑張ってね」
華  「嫌な感じですわ」

『ガルパン』TVシリーズ第5話より

以上の会話からみほの仲間たちが果たしている役割を見ていくと、

  • 優花里が前回の決勝戦でチームメイトを助けたみほの行動を擁護する(テーマ:チームメイト)

  • 沙織がみほへの個人攻撃にあたる「西住流」発言に反撃する(テーマ:友情)

  • 華が流儀の評価に深入りする発言をたしなめる(テーマ:流儀)

  • 麻子が「暗黙のルール」という言葉を捕まえて反論する(テーマ:ルール)

という具合だ。
この一連の会話で、優花里の「あの試合」発言だけは他のキャラでは代替できないが(あの決勝戦を知っているメンバーが他にいないため)、他の発言は別メンバーに置き換えることが物理的には可能だ。
しかし、各キャラが持つ役割を考えると必然的に上記のようにおさまる。もっと多くの脚本術の専門書を読めばより深い考察ができるのだろうが今の私の解釈は以上のとおりだ。

その他の例

『ガルパン』主人公・みほと彼女の仲間4人の関係性についてはまだまだ事例があるが別の機会に譲ることにして、1つだけ最も重要なものを取り上げたい。それは、沙織が担当するテーマ「友情」「学外生活」だ。

武部沙織
(『ガルパン』TVシリーズ第1話より)

前回のエントリーで紹介した「西住みほのゴースト」に見られるとおり、みほの高校生活はこれまで戦車道一色だった。

  • 高校にチームメイトはいるが、親しい友人はいない

  • 自宅に帰れば、師匠と姉弟子に囲まれている

それが大洗に転校して大きく変化したのは沙織の存在による。「帰りにお茶しよう!」とか、「これからみほのうちに行っていい?」とか、校内だけでなく下校後の生活でも友人としての距離感をグイグイと詰めてくる沙織に戸惑いつつも、初めての親友に対する感謝と喜びは「二人とも、友達になってくれてありがとう」みほのセリフに素直に表れている。

『ガールズ&パンツァー』は主人公・西住みほの成長の物語だが、一番の親友・武部沙織の重要性はもっと注目されていい。確かに彼女は、戦車に詳しいわけでもなく、戦車の操縦が上手いわけでもなく、戦車の砲撃が上手いわけでもない。
しかし、この物語を前に進めるきっかけとなったのは沙織だ。彼女なくして、大洗女子学園の明るい未来はなかった。

みほと沙織、二人の出会いで物語は始まる。そして、運命の歯車が回り始める。

「へい彼女、一緒にお昼どう?」



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