『ガールズバンドクライ』製作の興味深い舞台裏
アニメ製作というハイリスクな事業に関係者はどう取り組んできたのか、個人的にとても興味があるのだが、それに応えてくれるインタビュー記事(末尾参照)があった。まぁ、基本的に「読めばわかる」のだが、その中でも印象に残った内容について軽く紹介したい。
企画の経緯
まず私の興味はこの手のコンテンツを誰がどのように企画検討し、製作に向けて意思決定するかだ。
というのも、例えば、普段の私が所属している組織では、そもそもアニメ製作のようなハイリスク事業は進められない。机上で投資回収計画を作成するが、その妥当性を正しく評価する能力がどこにもなく、誰も意思決定できないからだ。
『ガールズバンドクライ』はプロデューサー(平山理志氏)が全権をもって、自ら意思決定してきたようにインタビュー記事からは見える。主なところは、
企画開始は2020年8月で、作品放映の約4年前
企画の骨子は2+1で、「音楽アニメであること」+「今の時代を反映した物語にしたい」。その上で「地に足のついたお話」にする
作品のコンセプト「上京する女の子のバンドの話」は脚本家(花田十輝氏)が発案。コンセプト決定後は、「キャラクターもストーリーもあっという間に(花田氏)ご自身で決めてくださった」
といった感じだ。
個人的に興味をくすぐるのは、
「地に足のついたお話」である以上、1クールで武道館に行けないのは企画時点で確定的だった
「キャラクターもストーリーもあっという間に」決まったというのは、花田氏のツイート(=オリジナル作品は吐くほど大変)と矛盾している
などだ。
事業リスクとの付き合い方
アニメ製作はハイリスク事業だ。『ガールズバンドクライ』は結果的に高評価を得た作品だが、事業面では成功だったのか?それほどでもないのか?私が門外漢ということもありイマイチ見えにくい。
ただし、投資回収の面でいくつかリスク回避策、リスク分散策を採っているなと感じる。それは、
「3DCG+イラストルック+フルコマ」という未知の映像表現に挑戦する。これはこれで投資額の増加を伴うと思うが、万が一、作品が成功しなくても、この挑戦によって技術・ノウハウが蓄積されるメリットは大きい
上記1を本放映でいきなり披露するのではなく、YouTubeに作品(作中キャラのライブ映像)を出していくことで、徐々に技術・ノウハウを向上させ、世間の評価も確認する
YouTubeへの作品配信をリアルなバンド活動を行うトゲナシトゲアリの宣伝手段に位置付ける。これがそのままアニメの宣伝にもつながる
今後の作品の海外展開を想定し、上記3を多言語対応で実施する
といった内容だ。
中でもYouTubeでの作品配信については、「再生数で何かやらかしがあったのではないか?」と不審な目を向ける論調が一部にあったが、この時期のYouTube再生は海外が全体の60%を占めていたということで、多言語対応が功を奏し、再生数が上昇する形になっていることがわかる。
その他の感想
→企画時点でプロデューサーがこういう感想だった。そして、視聴者もまさにこうだった。
→ネットに渦巻く各種の感想を見ると、製作者の狙いを見事に達成していることがわかる。
→海外での事業機会を逃しつつあることがわかる。また、インタビュー記事で触れられている通り、川崎を舞台としていること、ルパというキャラクターの存在など、『ガールズバンドクライ』はいわゆるハイコンセプトな作品ではないので、これが海外でどのような評価を受けるのか(もしくは受けないのか)今後の展開に興味がある。