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『全修。』第1話の要点:実はナツ子は死んでない

アニメ界隈はガンダムの話題で持ちきりのようだが、それより何より私はナツ子が重要だ。『全修。』の結末までのストーリー展開を見据えたときの要点は主人公・広瀬ナツ子は現実世界に戻れるのか?だが、私の見立てでは現実世界に戻るのは必須で、その鍵が既に第1話に登場していると考えている。
(主に本作第1話のネタバレを含みます)

※前回の内容はこちら


物語の始まりと終わり

数ある物語創作論でも特に有名な「三幕構成」を理論化したシド・フィールドの著書にこんな趣旨のことが書いてある。

  • 物語の終わりに問題を感じたら、その原因は物語の始まりにある

  • 物語を書き始めるときには、物語の終わりを明確にイメージできている必要がある

物語の始まりと終わりは対になる表現が用いられることが多いので、例えば1クールで完結する作品であれば、第1話の内容だけでも今後の様々なストーリー展開と、その物語の終わりを想像することができる。
原作ありの作品とは違って、先のストーリー展開が明らかにされていないので、こうした楽しみ方ができるオリジナルアニメは最高だ!

昨シーズン(2024年秋アニメ)もいくつかのオリジナルアニメに注目していたのだが、残念ながらどれも完成度は高くなかった。今シーズンは『全修。』1つだけでお釣りが来て余りある。

あるシーンでの違和感

さて、物語の創作論に次のような指摘がある。

  • すべてのシーンには意味がある

    • つまり、無意味なシーンを描いてはならない

  • 登場人物のすべての会話にも意味がある

    • つまり、無意味なセリフを語らせてはならない

『全修。』がこうした原則に従った高い完成度の物語だとすれば、私には違和感を覚えるシーンがある。本作第1話でナツ子が倒れたときの社長のセリフだ。


ナツ子! どうした! ナツ子!
ナツ子! 死ぬな! しっかりしろ!
うそでしょ、ナツ子! ナツ子ってばぁ!!

『全修。』第1話より

少しコミカルな言い回しになっている点は目をつぶるとしても、いきなり「死ぬな!」は変だろう。弁当を食べて倒れた人に真っ先にかける言葉ではない。
しかし、すべてのシーン、すべてのセリフに意味があるなら、このセリフにも意味があるはずだ。私の解釈では「死」という言葉を出すことで、主人公・ナツ子が異世界に転生した事実の納得感を高める狙いがあるのだと思う。

前回紹介した『全修。』の監督インタビューでナツ子は『滅びゆく物語』の世界に転生したと書かれていた。この「異世界転生」を物語の導入部で視聴者に受け入れてもらうことが本作の出発点だ。
そして、これまでに数多作られた異世界転生モノは主人公の死から始まる。このイメージを視聴者に植え付けるために、先のセリフを社長にしゃべらせたのだ。

その一方で、あえて「死」を視聴者に強調するのは、実はナツ子は死んでいないことの裏付けでもあると思う。

ナツ子は死んでない

もし、ナツ子が本当に死んで『滅びゆく物語』の世界に転生したままだとすると、『全修。』という物語は真の大団円にたどり着けないと考えられる。広瀬ナツ子がハッピーエンドを迎えるには、やはり現実世界で新作映画『初恋 ファーストラブ』を完成させる(もしくは、完成に向けて作業が順調に進み始める)必要がある。

現時点(第2話放映済)では根拠に乏しいが、私の予想では『全修。』は中盤以降で次のストーリー展開をたどるとみている。
『SAVE THE CATの法則』の構成(BS2)をもとにあげてみると、

  • 迫り来る悪い奴ら

    • 『滅びゆく物語』の世界がナツ子の望まぬ方向に進んでしまい、その惨状に彼女は絶望する

  • すべてを失って

    • 絶望するナツ子に追い打ちをかける「全修!」のセリフと共にナツ子は現実世界へ引き戻される

  • 心の闇

    • バッドエンドを迎えた『滅びゆく物語』の世界から現実に引き戻され、ナツ子は自分の無力さに打ちひしがれる

    • 何とか再びあの世界へ行こうとあがく

  • 第2ターニングポイント

    • 『滅びゆく物語』へ行く方法を見つけ、再度あの世界に入り込む

  • フィナーレ

    • ナツ子はこれまでの経験をもとに、また仲間との一層の協力の結果、『滅びゆく物語』の世界を今度はハッピーエンドに導く

    • その後、ナインソルジャーの仲間たちと分かれ、現実世界へあらためて帰還する

  • ファイナルイメージ

    • 現実世界へ戻ったナツ子は会社の仲間たちの協力を得て、新作映画を作り、完成させる

鍵となるハマグリ

どうだろう?あまりに妄想が過ぎるだろうか。自分でもどうかしていると思う。
このストーリー展開の場合、ナツ子は現実と『滅びゆく物語』の世界を2往復するのだが、そこで鍵を握るのが弁当に入っていたハマグリだ。
あれが単なる弁当ではなく「ハマグリ弁当」であることにも、もちろん意味があるからだ。

「蜃気楼」という言葉にある「蜃」は「大ハマグリ」の意味で、そのハマグリが暖かい日にあくびをすると空中に楼閣が現れる蜃気楼を引き起こすという伝説がある。
つまり、ハマグリは人に幻を見せる力があり、この伝説をモチーフに『全修。』では変色したハマグリを食べたことをきっかけにナツ子は『滅びゆく物語』へ転生する設定になっているのだろう。

監督・山崎氏がいうようにナツ子は確かに『滅びゆく物語』に転生してその世界で生きているが、一方で現実世界のナツ子は死んでない微妙なバランスの上に『全修。』は成り立っていると考えられる。

そして予想される展開は、『滅びゆく物語』の世界と現実世界は時間の流れが違うので、一度現実に戻ったナツ子の居場所は弁当を食べて倒れた直後になるのではないだろうか。
そうだとすれば、再びあの世界へ行く方法は簡単だ。目の前に転がっているもう1つのハマグリを食べればいいのだ。

『全修。』第1話より

そのときには社長のコミカルなセリフを再度聞くことができるだろう。

うそでしょ、ナツ子! ナツ子ってばぁ!!

重ね重ね、『全修。』のこの先のストーリー展開が楽しみでたまらない。


※補記
noteは内容修正可能なので証拠になりませんが、個人メモとして本エントリーを投稿した日時を残しておきます。さて、この展開予想がどこまで当たるでしょうか。
投稿:2025年1月18日 08:23


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