姐さん!/パワフルおばあ薬剤師と出会った話
月に一度行くかかりつけの皮膚科にあたらしい薬局が出来た。
処方箋を提出して待った。
調剤室から現れた薬剤師を見て「!」となった。
「ひとみ婆さん?!」
亡くなった志村けんがよくコントで演じていた面白ばあちゃん。
いや、あんな頭じゃないけれど、なんとなく頭に浮かんだのだ。
でも、ひとみ婆さんじゃなかった。あんなにトボけてはいなかった。むしろ、逆、とは後々わかる。
ひとみさん(違う)は出てくるなり私の顔を見て大きな声で言った。
「まだ若いじゃないですかー!!」
バリバリちゃきちゃきの標準語、
我らが大阪では滅多に聞けないような完璧イントネーション、
アナウンサーが使う「アクセント辞典」を読み込んでいるのかくらいの!
何が起こったのか、何なんだ。
私はかなり「?!?!」という顔をしていたと思う。
そんな私に追い打ちをかけるかのようにもう一度、
「なにもう、若いじゃないですかー!!」
「わ、若くないです…」
戸惑いながらも返すとビンタ返しくらいの速さできた「若いですよー!」
何?!
その後ひとみさんは喋り続けた。
私のアレルギー用の飲み薬と塗り薬を袋に詰めたものを用意しながら。
と、それを袋に入れて会計をしながらずっと!!
「若いのにこんなうちからずっとアレルギーの薬飲んでいいんですかねー、もー。若いのに―。
って言いながら処方したの私なんですけどもねー」
はあ……。あ、いえ、その。
「ボディーソープ使ってる?」「やめました!」
「石鹸?」「はい! 昔からあるベタなやつにしました!」
このへんからもう私も慣れてきた。
戸惑いながらも面白くなってくるやつだ(私のあかん癖。笑)
こういうオバアをはじめとする性別を問わずクセの強い人には、
元気よく返事をするのが一番良い(と思う)。
必要以上にアホっぽく明るく元気になノリで。
てか、それが半分私の素でもあるし。半分ね。
「揚げ物好き?」「好きやけどめちゃ控えてます!」
「チョコレートは?」「食べません! 食べると肌荒れるからやめました!」
尋問か。でもだんたん面白くなってくる。
「じゃあこれどこに塗るんだろ」「ここです! ここ!」
私はマスクをずらして鼻の横を指さした。
ひとみさんは叫ぶように言った。
「マスクーー!!」 「そうでーす!!」
イミフに続くコロナ禍、
マスクをしていることで蒸れたりで肌荒れや腫れたりすることや人が多い。
ピンポイント一か所な私なんてマシな方ですが。てか、マスクーー!!って。
尋問はまだ続く。
「合成洗剤使ってる?」「ちょっとわかんないんですけどなんも考えず洗剤使ってます!」
「ダメですよ!」「はい!」
「ゴム手袋は?」「使ってないです!」「ダメじゃないですかー!」
怒りスイッチ、オン。
「ダメですよ。アタシもね、手荒れが酷くてね、指紋なくなるくらいにね、
でもねゴム手袋使う用になったら1年くらいでね、ね、これ見て下さい」
ひとみさん、自分の手を見せる。両手をぱっ、と。
「わぁ、めっちゃきれー!」
「でしょー? そうなんですよー!
だからね、厚手のやつ買ってね、買うべきですよ、300円くらいで売ってますから」
「はい!!じゃあこの帰り道に買いますっ!!」
「合成洗剤は絶対ダメですよ。よく落ちるやつは強いから手にも悪いんですよ。
合成洗剤はね下水処理場とかでもなんちゃらかんちゃら(※忘れたごめん)。
だから絶対成分表よく見て違うやつ買って下さい。
汚れ落ちにくいけれどねカレーとかでもうまく洗うとちゃんと洗えますからね」
「カレーも肌荒れるから最近は食べません!!」
ひとみさんは自分の求めている回答(でもワシ全く嘘ついてないよホントだよ気をつけてるんよここ最近特に)が返ってくると、「うん」「うんうん」と頷き、
オリンピック代表卓球選手みたいにぽんぽんぽんぽん打ち返してきた。
完璧なイントネーションで。でも、もう試合も終了間近。
「ホントまだ若いのに若いんだから。はい。●●円です。はい。これお釣り。袋入れてあげますね」
(※あれ?袋代とらんのん?)
「手荒れはホント嫌ですよね。あーあ、メイドさんとか雇えたらいいのにね。
ホント。って毎日アタシ思いますよ。
年収が●●円くらいあればねえ、雇いますよねえ。ホントにねえ」
たまらず私は薬局で大笑いしてしまった。お客さんは他にいないけれど、受付に若い薬剤師さんがいるのに。
「(爆笑からの)それはええですねえ。そういう身分になりたいですねえ!」
ひとみさんは今日イチ満足そうに頷いてからなにかを取り出した。
「うん、あとこれあげますね。
アルコール消毒出来るウェットティッシュね。外出のときに持って行ってください。
ウチの薬局のオープン記念ですのでね。ね。がんばんなさいね」
あれだけ肌荒れのこと言ってたのに、
アルコールティッシュでの肌荒れの心配は?
とか。
でもキャンペーンだからそりゃええのんか(よくねーよ)?
とか。
なにをがんばるのだ。
とか。
頭の中でめっちゃ色々思いながらも全部一瞬で消して全力で返した。
「はい!! ありがとうございますがんばります!!」
ひとみさんはとてもとても満足そうに頷いて、調剤室へと帰っていかれた。
なんだったんだ。
ひとみさんが調剤してくれた薬たちを鞄につめながら、
受付してくれた若い女の子をチラッと見たのだけれど。彼女は一切笑ってなかった。
次回からここに決めます。
次は「お姐さんこそ若いじゃないですかー!!」って言おう。
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大阪の物書き、中村桃子です。
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらもやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。
ブログのトップページに簡単な経歴やこれまでの仕事など書いております。連絡先も。
お仕事依頼は勿論大歓迎、以外のご連絡も大歓迎です。
現在、ウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。
最新話11回と12回も先日アップ!
と、あたらしい連載「Home」。皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼちと。
旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、
各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中(貴重映像ばかり)。
https://youtube.com/channel/UC9aToFUeMh1Y0QfMGkmjhsQ
……と、New。今年からはYouTube絡みのお仕事にもかかわっております(演劇系とかじゃないけど)。ふふふ。
仲良くしてくれたら、とても嬉しい。
改めて今後ともどうぞよろしくお願いします。ありがとう。ラブ。