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「なんて勿体無い、夢みる兵士たち」
ケイト・ブッシュ3枚目のアルバム「Never for Ever」のM10、「Army dreamers」。
初めにオフィシャルMVを見て歌を聴いた時、すごく可愛らしい印象がした。ケイト・ブッシュはZABADAK(日本の民族系音楽グループ。ケイト・ブッシュを演ろうとしたのが活動の原点らしい)から知った口だけれど、まさにZABADAKはこういう曲を参考に曲作りしたんだろうな、とかぼんやり考えていた。
その時歌詞までは聞き取っていなかったが、改めて和訳を見て衝撃が走った。可愛い曲調・歌い方とは真反対の、むごい歌詞だったからだ。
歌詞は、兵士だった息子が遺体となって母親の元に帰ってきたところから始まる。母親は冷たくなった我が子を前に、考えを巡らす。
彼に何ができた?ロックスターになるべきだった、でもギターを買うお金を持っていなかった。政治家になるべきだった、でもちゃんとした教育を受けていなかった。
Should have been a father
(父親になるべきだった)
But he never made it to his twenties
(でも、彼は20代を迎えることさえなかった)
個人的に驚いたのが、この後に続く「What a waste」という歌詞だ。英語の意味を調べたところ、「勿体無い、無駄だ」とあった。兵士の息子の死に対して、勿体無い、無駄などと言うのは、一見不謹慎にも思えるし、他人事のように見える。
けれど、この一種の突き放しが歌詞の内容のむごさを強調する。そもそもこの曲は前述のように静かで可愛らしい内容だし、ケイト・ブッシュの歌い方も感情が読み取れない平坦な感じだ。そんな曲調・歌い方・奇妙なほどに俯瞰的で突き放した歌詞が、歌詞の内容のむごさを強調している。
この曲のオフィシャルMVのコメントには、この歌詞の内容の悲しさを嘆く人たち、この歌詞の状況が訪れることが無くなるよう祈る人たちがいた。
そして何人か、「私の身近な人も、兵士として亡くなりました」と書き込んでいた。うち1人が、追記で「みんな、励ましてくれてありがとう!」と気丈に振る舞っていたのが印象に残った。
今の私の暮らしでは、なかなか現実として捉えにくい歌詞。けれど、その現実は確かに今、この瞬間にある。辛い歌詞だけど「好きな曲」なのは確かで、繰り返し聴く。その度に、色々考えを巡らす。
What a waste
(なんて勿体無い)
Army dreamers
(夢みる兵士たち)