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その日食事は太陽を得たーものづくり1
そっと入る店内。中には店主さんが1人。こちらを見向きもしない。戸惑う。
もしかして、怖い店…?まずいところに来ちゃったか?しょうがない、いいタイミングで出ていこう。と、思った矢先。
「あっ、ああ、いらっしゃったんですね!気づきませんでした、すみません!」
そこから始まる、怒涛の「ものづくり」マシンガントーク。
これが、私の民芸デビューとなった。
民芸ってなんぞや
ものづくりって、いいよなあ、と思い始めた。ハンドメイド品とか。
買うとなると、ミンネとかか。いや、通販もいいけれど、やはり実店舗でじっくり見て、決めたい気もする。
そんなふうに、ぐるぐるほわほわ考えていた時。あるコミュニティの仲間が、最近民芸にハマっていることを知った。
民芸か。
聞くところによると、彼は窯元にまで足を運んでいるらしい。制作者と対話し、もののエピソードを知るのが楽しいんだとか。
ものづくりの良さって、多分そこだろうな、と前から思っていた。制作者から、直接ものへの思いを聞いて、買い手もものへの思いを追体験できる。私レベルのシャイならいきなり窯元は難しいが、セレクトショップでゆるくお話を聞くのはできるかもしれない。
民芸、いいな。
ところで、民芸とは何か。
何となく、古くから受け継がれている器の作り方、っていうのは分かる。けれど、それ以上の詳しい定義は?
意を決して入店した民芸セレクトショップの、ものづくりマシンガントーク店主による解説が、こちら。
「民芸がなにか、っていうのは私にも分かりません。」
…いや、まあそうだろうな。確かに、定義が難しそう。
これが民芸だと思えば民芸です、みたいな感じでいいんじゃないか。
するとマシンガン店主は、私を連れて店内を徐ろに歩き回り、各お皿を指してこう言った。
「例えば、これは民芸ですね。」
「で、これは民芸じゃない。民芸じゃないけど、うちでは置いているんです。」
…なんか定義あるじゃん!
結局これを書いている今も、民芸が何なのかはよく分からない。まあ、民藝のスペシャリストであるマシンガン店主が分からないというのだから、私に分かるはずもないが。
一応、民芸の本を買おうとは思っている。と同時に、「民芸は、理詰めじゃなく、イメージで楽しもう」とも、心に決めた。
太陽の器
面白い、しかし素人には分からない内容がちょくちょく挟まれるマシンガントークを聞いていると、1 つのテーブルが目に留まった。
何だこれ?太陽の柄だ。
手のひらサイズの器も、大きいサイズのお皿も、みな一様に太陽。
とりわけインパクトが凄いのが、大きいサイズのお皿だ。器の底からじわじわせりあがってくるような模様は、まさにコロナの偉大さを思い出させる。
この柄気になります、とマシンガン店主に言ったところ、
「ああ、それはトビカンナですよ。器を仕上げる時色むらができちゃうから、トビカンナでごまかしてるんです。」
ごまかしを昇華させた柄なのか。そういう工夫、大好物。
その後も、いろんな説明を受けたし、いろんな民芸を見た。どの民芸も、作り手の思いが伝わって素敵。けれどいちばん心に留まったのは、あの太陽の器だった。
さりげなく、値段を確認する。いちばん迫力のある大きな器は、5000円台だ。素敵なんだけど、やはり民芸初心者、しかも金欠学生としては、残念ながら手が出せないお値段だ。
しかし、小さいものでも買っておきたい。ご飯茶碗のようなこれは、2000円弱。これならさっきのものと比べて、お財布に優しい。
「じゃあ、このご飯茶碗ください。」
「お客さん、これご飯茶碗じゃなくて、小鉢ですよ。」
はずかし。そのくらい民芸初心者なんです。。。
こうして無事太陽の器を購入し、その後もあれこれ話を聞き、やっと店を出る時。
「さあ。民芸デビュー戦、どうなりますかね。」
そうだ。私、これで民芸デビューだ。
〇〇デビュー、なんて久しぶりかもな、とホクホクしながら帰路についた。
家で梱包を解き、素朴な、しかし威厳のあるその器に、しばしうっとりとする。
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これが太陽の器。どう、太陽でしょう?
しかし、買って終わりではない。器であるからには、使わねばならない。
マシンガン店主も、店に並んでいる状態で魅力の5割、後の5割は器におかずを盛ったときだと教えてくれた。
さあ、作ってみるか、副菜。
太陽の民芸、小鹿田焼
食べ物の話の前に、しばし今回私が手に入れた器の紹介を。
この器は、「小鹿田焼(おんたやき)」というらしい。小鹿田焼が生まれる場所は、大分県。江戸時代から、一子相伝、手作りで作られ続けてきた。10の窯元で制作される、と色んなサイトの説明に出てくるが、先ほどの店主曰く、最近9になったとのこと。
特徴的な紋様の1つが、前述のトビカンナだ。他にも色々な幾何学的紋様があるのだとか。
今回私が購入したのが、「黒木昌信窯」の小鹿田焼。
最近代替わりしたらしく、お若い方のようだ。黒木さんのインスタグラムを見ていた↓
https://www.instagram.com/p/C71euWESTg3/?igsh=aWkwaG1sODJyaG85
制作の様子が投稿されている。
こうして、この方が丹精込めて手作業でつくった器が、私のもとまで届いているのだ。人の力だけではない。陶器を形作る土の力、窯の火の力、そのほか色んな自然の力…。
そう、思いを巡らせながら小鹿田焼を眺めると、ほんのりあたたかく見えてくるものだ。
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その日食事は太陽を得た
さて、料理だ。
実は最近、まともに自炊できていなかった。料理に時間を割くくらいなら別のことをしたい、と考えていたため、3食のうち朝食パン(いつも通り)、1食は菓子パン、残り1食は学食で苦し紛れに栄養をとる、といった感じだった。
しかし器を買った以上、最初は自分の料理でお出迎えしたい。久しぶりの料理だ。記念すべき一品めの副菜は、私の定番自炊・にんじんしりしり。
完成したにんじんしりしりを器に盛ったとき、えもいえぬ恍惚の境地に至った。
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太陽と化した、にんじんしりしり。
土の恵みを受けて、トビカンナの勢いとともに、
食べ物の力がほどばしる。
器は食べられない。だから、味について気の利いたコメントはできない。
ただ、とても幸せ。「ものづくり」をよく噛み締めて行う食事が、こんなに幸せなものだったとは。
食事の席で、百均の皿たちに混ざり、少し居心地悪そうな小鹿田焼。
その姿が、とても輝かしく、誇らしい。
ありがとう、太陽の器。
ものづくり・ひとづくり
太陽の器でQOLが爆上がりしたことにより、民芸集め続行が私の中で早々に決まった。確かに値は張る。けれど、その値に見合った、大切な体験ができる。
店主さんとお話ししたり、器について延々と思いを巡らせるのが楽しい。大切なものが、私の中にどんどん吸収される。ものづくりを通して、私という人づくりもなされているようだ。
さて、次はどんなものづくりに出会えるか?