人の根っこを辿る:地中美術館
はじめに
瀬戸内に浮かぶアート島・直島への遠出。そして島内にある「地中美術館」、人生で2度目の来訪。今回もまた、色々なことを考えながら鑑賞した。
館内は基本撮影禁止だったので、私のレポで情景を想像してみてね。感じたことを中心にまとめてみた。
安藤忠雄
そもそも地中美術館とは何か?というと、文字通り地中の中に埋まっている美術館。展示されているのは、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3名の作品のみ。地中に届く自然光を頼りに、鑑賞をするのだ。詳しくはHPを見てみて。
地中にあるとか、それでいて自然光を取り入れられるとか、できるのか?できるのだ、建築家・安藤忠雄なら。
あのコンクリート打ち出しの壁に、下の展示室へと降りる階段がついている。ぐるぐる降りているうちに分からなくなる、今地下何階なんだ?
そして、展示室に繋がる暗い通路にも、いくつか分岐がある。なんとなくで選ぶと迷子になりそうで、ドキドキしながらも進む。(ちなみに、地中美術館には順路がないらしい。だからどの作品から見てもOK、迷い込んだところから順に見ていくのでも。)
「アートへの入り口」を、身体で体感させてくれる安藤建築。この安藤建築とアーティストの作品がぶつかり合い、化学反応を起こすのが地中美術館の魅力だ。
クロード・モネ
《睡蓮》シリーズ5点
暗い通路の先には、くすんだ明るさのだだっ広い空間が開けていた。そして、モネの《睡蓮》が5点。
大画面のそれらの作品は、間近で見ると本当にモネの庭にいる気分になる。ところが、少し離れてみると、白い空間が見えてきて、良い具合に現実に引き戻される。白い空間と、作品内の光の入り方が同じ具合というか…。とにかく、展示空間と展示作品が不思議と調和している。ただのホワイト・キューブではない、まさに芸術家と建築家のぶつかり合いのような空間。
靴を脱いでスリッパで入るこの空間は、床が小さなタイルの敷き詰めだったのも面白かった。タイルのそれぞれの角は少し丸みを帯びていたのも、モネの画風の柔らかさとマッチしていたように思う。
ウォルター・デ・マリア
《タイム/タイムレス/ノー・タイム》
教会のように開けた地下3階の空間、その全面にデマリアの作品がある。
中央に置かれているのは、大きな黒い球体(ネットで調べたら、G◯NTZとか言われていた笑)。この作品からは、何というか「一神教」を感じる。一なるもの…。黒い球体の周り、壁に伝うように設置された金色のオブジェたちは、その祭司…みたいな。
あるいはタイトルに「タイム」とあるところから考えると、この黒い球体は絶対的な「時」なのかもしれない。時を司るなにか?
黒い球体には、四角く切り取られた天井から空の様子が写っていた。この日の雲の流れは早かった。普通絶対やることのない雲の見方。
階段を登って、上から球体を見下ろしてみると、その神/時より上の立場になった気分になる。絶対的に見えたそれが、小さく、可愛らしく見えた。祭司たち(仮)も、よく見ると向いている方向がバラバラだ。
どんなに、積極的に世界を創るなにものかがいても、結局はみんな気にせずに過ごすのだろう、とか考えた。
ジェームズ・タレル
《アフラム、ペール》
《オープン・フィールド》
《オープン・スカイ》
光を操る芸術家、ジェームズ・タレル。地上の光をいかに取り込むか、考え抜かれた安藤建築と、ここでも化学反応が起きる。
モネ展示室を出てすぐに見えてくるのは、青くぼやっとした、立方体。何だろう?と思って近付いてみると、立方体に見えているものは、実は壁の角をうまく使って、錯視でそうなっていたのだ、と知る。
今私が見ている世界は本当はからくりまみれで、実際に見えているものとは大分違う。けれどその実際のものは、単純な善なる光でできているんだ、みたいなことを考えた。
さらに進むと、天井にぽっかり長方形の穴が空いたスペースに出た。空のみが見える。これが1つの作品だ。椅子に座って、ぼーっと空を眺める機会って、あるようでない。何だか、禅の境地に達したようにも感じた。
もうひとつの作品は…。詳細は述べないので、是非一度体験してみてほしい。多分初見で見た時がいちばん楽しい。やはりこれも、「見えている世界は別物で、実際自分はもっとできる」と思える作品だった。
おわりに
地中美術館には3人のアーティストの作品しかないからこそ、1つひとつの作品をじっくり鑑賞できる。どの作品も、「あー、こんな感じの、いかにも現代アートね」ですぐ通り過ぎることはできる。けれど、一見分からない作品を前にして、色々考えるのが楽しい。
常日頃考えていることがある。それは、抽象的な概念とか哲学についてじっくり考えられる場所が、もっとあれば良いのに、ということだ。なぜ私たちはいるのか、私たちとは何で、これからどうなるのか、そんな人間の根っこを掘り進められる場所。
地中美術館ではそれができる。地中というイレギュラーな環境で、まさに地の中の根っこを追うように、いつまでも観想に浸れる。人の根っこを辿れる、そんなアートの島の美術館。