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自然藝術

自然藝術家
植物のかたちや、いつか見た情景を染め写す
植物に触れるとは(土)地(球)に足を着けた生き方を學ぶこと
自ら採取した野の草花など天然染料を使用
2020年より独学で活動を開始

2023年7月 展示でのプロフィールより


「満」(みちる)

植物の日々を見つめていると、変化していくこと、力強く生きることや
共存することなど、學ぶことが沢山ある。
夏至の日の朝に摘んだ12種の植物を布に敷き、蒸して染め付けた。
植物そのものの完璧な造形美を引き立たせるように、
それぞれの植物から出た色に金属イオンの化学反応を掛け合わせてデザインした。

「満」の作品紹介文より


「世界」

誰もがいつか見たことのあるような一瞬。
空の色はすぐに移ろい、表情を変えていく。
写真には映せない、そんな空の美しさに焦がれ
じっと眺めては色々なことに想いを馳せる。
そんなとき、世界は広がって、自分が今、此処に存在しているのだと実感したりする。
6種の天然染料を煮出して、時間をかけて丁寧に浸して染めた。

「世界」の作品紹介文より

染めの意味すること

15夜も過ぎ、2023年もあっという間に後半に突入しました。
ついこの間まで暑くてたまらなかったのに、樹木の葉は色を変え
足早に秋へ近づいていますね。

前回の年始の投稿から今に至る間に染めることへの向き合い方が随分と変わり、制作レベルもぐんと伸びたと感じます。
植物や染色の知識が増えたことに加え、より意識がクリアになり、無駄な思考が減ったということが大きいと思います。それが冒頭に引用した文章によく表れているのではないかと思います。
今回は最近の活動や、本質的に考えてきたことを言語化できるようにしてくれた本や出来事などについて書いていきます。


一般的に「染色」とは、染料と繊維(被染物)の間に何らかの結合力や状態変化を伴って着色することで、物理化学や生物学的なことも含みます。
私の活動領域での「染め」は天然染料を使用した、主には海外で発展した新しい手法のことを指し、アート表現のひとつの手段として選択しています。  日本で認知されている「草木染め」的な染色にもとても奥深く美しい世界がありますが、それは世界の天然染色の中でもごく一部です。
化学(合成)染色に比較すると天然染色はニッチな世界ではありますが、現在でも理化学をベースとした新たな染色テクニック(print,drawを含む)が日々生まれています。染めはアートである以前にサイエンスなため、研究することは多岐に渡ります。
昨今の環境問題への意識の高まりなどもあり、天然染料を取り入れる人々は増えています。
私の場合は自然の美しさを表現したいという想いが常にありましたが、絵画や写真などではしっくりと来ず、染色という方法が偶然自分に合っていたのが始まりです。

「花を狩る」

花を狩るこころおもいで版画しました。
けものを狩るには、弓とか鉄砲とかを使うけれども、
花だと、心で花を狩る。
人間でも何でも同じでしょうが、心を射とめる仕事、
そういうものを、いいなあと思い、
弓を持たせない、鉄砲を持たせない、
心で花を狩るという構図で仕事をしたのです

版画家 棟方志功「華狩頌」


植物というと、なんとなくやさしいイメージを持つ人が多いと思いますが、私はもっと気高いものとして捉えていて、それはナチュリズムに近いものかもしれません。
ボタニカルコンタクトプリント(植物をその形のまま蒸して染める方法)に偶然出会ってからというもの、このテクニックの不思議と格闘するうちに、作業自体が花を生けたり、瞑想することに近い感覚を覚えるようになりました。
プリントに使う植物も、丁寧に優しく、無駄にならない程度「戴く」という姿勢で採取しています。無意識であれば気にもかけない、時には迷惑な「雑草」ですが、プリントをする身としてはまるで違います。
まず全ての植物が適しているわけではなく、そしてそれぞれの植物が季節ごとに生む色というのがあり、それはほんの1週間限定のこともあります。
実や花をつける直前が良い場合もあれば、落葉シーズンに最も色が濃くなるものもあります。
蒸す時間も、15分から2時間近くと、それぞれの植物によって変わります。そうした多くの要因が関係する複雑なテクニックなので、かなり深い集中が必要です。
そうしたことに真剣に向き合ううちに、ただの作業から、もっと深いものへと変わっていきました。その頃から、より植物を知りたいと思い植物学の本も読むようになりました。同時期に先述の「花を狩る」という言葉にも出会ったのでした。

Teaism(茶道)への興味のはじまり

そんな折、アメリカ人女性で近代抽象画家のジョージア・オキーフ(1887〜1986年)という人を知ります。
代表的な花の絵に魅了され、どんな人なのかと調べていくと、経済的にも精神的にも自立した女性で、アートシーンを渡り歩いた後、晩年はニューメキシコの砂漠に住んでいたといい、その人間性にもとても興味を持ちました。
師事した画家の講師から日本画の濃淡表現を学んだことなどから、当時主流であった写実表現に代わって抽象表現に傾倒していきます。
オキーフが繰り返し描いたモチーフである花ですが、岡倉天心の「茶の本(The book of Tea)の花に関する記述がお気に入りで、何度も読んだのだとか。

この時は、いつか読もうと思って写真だけ残しておいて、
「茶の本」にも記述されている、禅師であり日本にお茶を広めた栄西という人が書いた「喫茶養生記」を読みました。
数ヶ月経った最近、アートに造詣が深い方から、なんと「茶の本」をプレゼントしていただいたときは本当に驚きました。
後述しますが、この本は今年最も影響を受けた本と言えます。

この頃、重い体調不良となり、起き上がるのも辛いという日々が続いていました。染め以外の仕事で通勤するのも毎回がデッドオアアライブ、なんとか出かけて帰ってきても死んだように寝るだけで、もちろん制作もできずにいたこともあり、「養生」というのは自分にとってもテーマになりました。
天然染色で用いる染料の多くは東洋医学で漢方としても使用されるものが多く分野が重なることは以前から知っていましたが、改めて薬効に興味が湧いてきました。
茶はもともと中国で最初は医薬品として用いられ、やがて飲み物として受け入れられ、藝術の域まで達しました。
いわゆる椿科の「日本茶」(現在の煎茶)だけでなく桑の木やクローブを煎じて飲む方法などがあり、いずれも染料としても有名です。
そんな流れもあり、駄目元で漢方の処方を受けてみたところ、
半月ほどで信じられないほど体調が良くなったのです。
あの日も辛過ぎてベットから起き上がるのもやっとでしたが、
この生活をなんとかしなければと、ぜーぜーしながら病院を訪ねたのは一生忘れられない日で、最高の選択ができたことに感謝、、、、、。

飲食衣服、これ大薬


染めに出会うずっと前からウェルネス分野に強い興味があり、20代最初のころはセラピストとして仕事をしていこともあって、
どういう形が理想なのかは分からないけれど、人の五感に作用するような、心身の健康につながることがしたいなと長らく考えてきましたが、
この頃から、染めというものを通して、何かそういう活動ができるのではないかと思いはじめました。

染めというのはただ色を布に染めるだけの意味ではないということです。
自然をリスペクトし、植物に足並みを合わせ、色や薬効をいただく。
それは藝術でもあり癒しにもなるものだと。
「茶の本」の岡倉天心は「茶道」を英語で"teaism "と訳しました。
"Tea ceremony" が一般的なところを、あえてismとしたのは、この文化が単なる行為ではなく、"Taoism"(道教)、"Buddhism"(仏教)など哲学と世界観の結晶であり実践なのだということです。
これと同じように複合的に染めという文化を昇華していけるのではないかとぼんやりと考えています。

ちなみに冒頭に書いた言葉は儒教における古典の中でも最も重要視されている典籍「四書五行」からの引用です。
実際は
"草根木皮 これ小薬
鍼灸 これ中薬
飲食衣服 これ大薬
身を修め心を治める これ薬源"
と続きます。

以前から一部は目にしたことがある言葉でしたが、とてもセンスの良い友人が最近、あなたの活動はまさにこれだねとメッセージをくれて、初めて元ネタを知ったと同時に、
なかなか短時間では共有できない総合的なイメージを、よく理解してくれたなあと、とても嬉しくなりました。
薬のことを「内服薬」と言いますが、昔は服を薬としても着ていたことから
「服用」という言葉になったとか。


また、まだ体調の悪かった3月頃に知って記録しておいた言葉。

月名提唱

月の光も粗末にはしますまいわが国のありがたい古さを新しく生かしましょう
海山の間に見捨てられたものを見出して活用しましょう
住みよく着心地よく、また簡素でおいしい食事をしましょう
歌も作り俳句も詠み、花も茶も書画、音楽も楽しんで生活を豊かにしましょう
経験の累積、祖先の遺産を正しく生かそう

山崎 斌

山崎 斌さんは小説家からはじまり、1926年頃には伝統染色の復興や、養蚕農家の不況対策のために、絹糸を天然染料で染め、手機による織物(紬)を復興する運動を始める。化学合成染料による染と区別するため、古式ゆかしい草根木皮による染めを「草木染」と命名した人。
晩年には提唱してきた生活文化、の衣・食・住に関し、善と美とを再認識し、句会、歌会、茶会、草木染の講習会などを開き、新たに窯も築いたという多才な方だったそうです。
この提唱がとても好きです。

5月ごろから現在


体調が良くなってきた頃、ようやく前年からオーダーしてもらっていた作品を仕上げました。2メートル近い生地で、今までで一番大きなもの。
リハビリにしてはかなりの大作でしたが、友人の想いが詰まった依頼だったので本気で挑んで、当初思っていたよりもっと良い作品にすることができました。待ってくれていた友人に感謝しかありません。


ふたりの思い出の景色


また、私の制作活動を応援してくれていた友人夫婦が移住することになり
その二人のために急遽、門出のお祝いのれんをサプライズ制作。
これまた気合で作りきりました。自分でもすごく記憶に残る良いものが産めたと思いますし、二人の新たな場所に届くまで、たくさんの人に見てもらうことも出来ました。


「キミといれば、まいにち吉日」



やっぱり喜んでもらいたい相手がいると、不思議と自分の底力以上の何か神がかったようなパワーが出るし、毎回予想より数倍かっこいいものに仕上がるのです。


そしてその後、産みの疲れも取れないうちに、以前から色々な人から勧められていたアートコンクールへ挑戦。公募展情報を開いて、すぐに目に入った最高賞だとイタリアに行けるコンクールに決めて、ちょうど締め切りが間近だったので勢いで応募。
人生で初めてキャンバスに布を張ることにもトライ。これが結果的に、染めをアートとして認知してもらう大きなきっかけになりました。
それが冒頭の2作品です。
コンクールで結果は出なかったものの、作品を評価してくれた友人が運営する店舗の一部に展示を許可してくれたことで、初めてリアルで沢山の人に観ていただくことができ、ご購入までしていただけて、本当に本当に感謝でしかありません。
以前からこの友人のお店に関わるメンバーみんながお世辞ではなくて本気で、もっと人に観てもらって欲しいと応援してくれて、いろんな方々に紹介してもくれたことがかなり精神的にも支えになっていました。ありがとう!

そんな流れで、自分を全く知らない方に、なんて言ったら活動内容が伝わりやすいかを考えた時に、本調子でなかった時期に色々と見て感じたインスピレーションから、「自然芸術家」とすることにしました。
もちろん染色はこの先もずっと大事に続けるし、もっと加速させたいのですが、今回書いてきたように、染めという行為は哲学の一部なので、
色々な要素を編み合わせながら活動していけたらいいなと思っています。

ちなみに冒頭の「(土)地(球)に足をつけて生きることを学ぶこと」という言葉は3月ごろYAMAPという登山用アプリを作った春山さんのインタビューを見ていて、染めているときの自分とすごく似た感覚をこの人は言語化してくれていると感動したことから生まれたもの。
春山さんは世界を旅する中、(巡礼など)歩くという文化と信仰のつながりを体感したそうで、とても強烈に覚えているのは「ロケットで宇宙にいかずとも、歩くことで宇宙を感じることができる」ということをおっしゃっていて、生み出しているサービスが超ロジカルなのに、その後どのインタビューを見てもやっぱりすごくおだやかな哲学者なのに驚いたのと、私も染めの一連の作業の中で、地球と繋がってるような深いゾーンに入る感覚と、おそらく近いんだろうなと感じ、(ややスピな雰囲気がありますが)コンセプトとなる言葉が生まれました。

"The book of tea"読了後

そんなこんなで、年始にスクショしていたことも忘れかけていた8月に
アートの歴史から現代アート作家までとてもお詳しい方が、ジョージア・オキーフ好きなんだったらと、岡倉天心の「茶の本」日本語訳をプレゼントしてくださったのです。
読んでみたら、なんというかこう、全ての点がつながるような感覚を覚えました。
禅は道教から発展し、茶は禅を通して茶道へと昇華されたため東洋思想の根本的な流れを引き継いできたと天心はみなしています。
いま、目の前の現実をかけがえないものとして十全に受け入れ、味わえという教えで、これはとりわけ禅において徹底され、茶の基礎になったのだといいます。

茶道の浸透とともに、茶室に花を生ける方法も確立していきましたが、
西洋的で華美な審美主義と茶の世界の美的感覚は真逆のもので、
その後に独立して発展していった華道とも違いました。
茶室とはもともと禅の修行のための場所であり、
茶人の生け花とは茶室の空間を決して邪魔しないように周囲の環境と釣り合うように工夫すること、また、花と葉を切り離さず取り合わせて使うことで、植物の生態丸ごとの美しさを提示するのを目的としているそうです。

ボタニカルコンタクトプリントではとりわけこの感覚が近いものがあり、
摘んできた草花を布にレイアウトしていく作業はまるで花を生けているようだなと以前から思っていました。
自分で多少のデザインはしますが、始まってからは植物のかたちや色が活きるように、手が導かれているように感じるからです。

浸し染めに関しても、禅の「虚」という考え方のように、基本的にはなるべく控えめに自然のありのままの美しさを表現したいと考えています。

個性的なデザインも好きなのですが、やはり自然の美しさを超えることはできないし、誰も考えもつかないような独創的なアートが湧いてくるというタイプの作家でもないと思っています。

クラフトワークってやっぱりいいよね


ほかには、世界各地の手仕事にも興味があります。
自分には出来ないと思うけれど、いつか少し自分のために買ってみたいなと思ったりしています。(出来るなら仕入れに行ってみたい!)
世界の染織には本当に美しいデザインが沢山!でも、その多くは技術者が少なくなってしまっているそうです。
良いものづくりされた衣服は、どんなにヴィンテージになってもずっと美しいんですよね、、、、。
個人的には色もそうですが、柄物ラバーなので、刺繍やろうけつ染めなどで
繊細なデザインが施された服が好きです。
それにそのデザインの背景となる歴史や文化にとても惹かれます。
私もおなじように、いいな、と思っていただけるようなものを生んでいきたいです。

ここまで長文を読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。
その上お願いがあったりして先に謝っておきます(笑
9月に誕生日を迎えました。こんな時以外にお願いはできないので
思い切ってみます。
記事を読んでいただいて、なんか良かったなあ、という方、
ぜひ10円でも20円でも小躍りするくらい嬉しいので、応援よろしくお願いします。(もちろんおすすめ情報なんかも大変ありがたいです!)
まずはこれから今まで出来なかった大判サイズを蒸すための道具を揃えたり
染めた後や展示会で使う衣類スチーマーを買ったり
いろんな場所で展示に行って沢山の人に自然の美しさを感じてもらったり
いつかは日常に彩りを与えるプロダクトを作ったり
近い将来は尊敬している海外の作家さんを訪問したりとか
沢山やりたいことがあります。
これからも引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
https://www.instagram.com/malie_botanicalcolor/



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