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【掌編小説|Reflection】ただいま

 ゴールデンウィークが終わったばかりだった。
 既に多くの人が日常に戻ったあとの街は人気もまばらで、しんとしていた。連休であろうがなかろうが多くの人が寝静まる時間帯に出歩いているから物音が少ないのも当然ではあるのだけれど、五月に入って数日間の賑やかさを思えば、静けさが際立つ夜なのは間違いなかった。キャリーケースを引く音だけが少しうるさかった。

 深夜一時発のフェリー。乗るのは初めてじゃないけれど、久しぶりだ。
 乗船手続きをした窓口で、
「アンダー25ね、何か年齢証明できるものある?」
と訊かれて身分証を出しつつ、今までこんなこと聞かれたことあったっけ、と思っていたら、25歳以下の割引料金が今年から始まったらしい。思いがけずお得に手に入れた切符を受け取り、ロビーで船を待った。
 観光のためではなく、これからしばらくそこで暮らすための旅路。でも、ふと自分を見下ろせばレモン柄のワンピース。瀬戸内の島でレモンを身に纏ってキャリーを引く姿はきっとどこからどう見ても観光客だろうなあ、と笑ってしまった。しかも結構浮かれてるやつ。意図的にその服を選んだ訳では無かったのだけれど。まあでも、新しい日々のスタートには、そのくらいベタな服の方が特別な衣装みたいでちょうどいいかもしれない。

 朝七時半になろうという頃、着岸を知らせる音楽とアナウンスで目が覚めて、下船の準備をする。フェリーに揺られている間はずっと眠っていた。目覚めと到着が同時、というのは結構気持ちがいい。神戸港を出発した時点で既に日付は越えていたのだけれど、眠りに落ちる前の時間はまだ昨日と地続きのようで、起きてからの方がきちんと「今日」を迎えられたような気がした。言うまでもなく太陽が昇る前の時間も、眠っている間の時間も今日であることは間違いないのだけれど、気分の問題として。
 はじまりには、陽の光が似合う。
 そんなことを思いながら降り立った港は、生まれ育った町ではないけれど、帰ってきた、という言葉が一番しっくりくる気がした。

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