ダンサー鈴木竜『AFTER RUST』を観て 《ルーマニア・シビウ国際演劇祭》
2019年2月15〜17日に横浜で日本初演されるダンス公演『AFTER RUST』。先に2018年6月、ルーマニアのシビウ国際演劇祭で世界初演されているので、その時に観た感想を書きたいと思います。
世界初演から、日本初演までに約8ヶ月。その間、スペインやベトナムなどでも上演し、ブラッシュアップもされてきたでしょう。どのような形で日本で踊るのか、期待が高まります。
(以下の感想は2018年夏時点のものです)
コンテンポラリーダンサー・鈴木竜
2017年に国際ダンスフェスティバル『横浜ダンスコレクション』で3つの賞を受賞し、ダンサーとして期待が寄せられる鈴木竜さん。これまで彼を起用してきた振付家たちは、その身体能力の高さと表現力の豊かさを口にします。
私も彼の舞台をみた時、まだ荒削りさもあったけれど、それでも優雅かつダイナミックな動きに「空間の空気を操ることができる人だ」と背筋が興奮でぞくぞくしました。
ジャズ、バレエを経て、コンテンポラリーダンサーとしてさまざまな舞台に立つ鈴木さん。2018年には自身のダンスカンパニー「eltanin」も立ち上げました。これからますます活動の幅を広げていくのだろうと、期待の高まるダンサーです。
『AFTER RUST』=錆びてきた身体と向き合うダンス
今回の『AFTER RUST』公演に向けてのインタビューの中で、鈴木さんは、こう話しています。
30歳になるし、いちど自分の身体にちゃんと向き合わなければと思いました。そこで身体がなまってきている感覚を“さび”と捉え、作品をつくろうと考えたのが出発点です
ー アートWEBマガジン「創造都市横浜」
タイトル『AFTER RUST』は、直訳すると「錆のあとに」「錆のむこう側」。コンセプトは、「さびの後に何が起こるのか?」という問題意識。“錆びた身体”というテーマを通して「老い」「身体」「自分との対話」が垣間見えます。
20代とくらべて錆びてきた身体と向き合うように、竜さんは舞台上に散りばめられた、錆びたモノたちと向き合います。拾って、触って、重ねて、ときに距離をとり、見つめては悶え、位置や角度を変え、新たな形をつくっていく……。まるで自分の“錆びた身体”と向き合う作業。それは修行のようでもあり、ただただ錆と遊んでいるようでもあります。
途中、違和感を感じたシーンがありました。
これまで竜さんのダンスは数作しか観たことがありませんが、どの時も感じたことのなかった空気が流れたのです。
竜さんのダンスは、ダイナミックだけれどひとつひとつ確かめるような細やかさがあり、どちらかというと暗く、深く、目の前にある大事なものとじっくり対話をするような印象でした。それが、軽く、少しおどけたような、笑いを誘う軽快さがありました。そういったコミカルさはあまり得意ではないのかなとすら思っていたほど見慣れなかったので、「あ、新しいことをしようとしている?」というのが最初の感想でした。
錆のなかから、これまでにない鮮やかな種を見つけ、それが芽吹く過程を観ているようでした。錆のあとに、見たことがないダンサー・鈴木竜が姿を覗かせていました。身体の錆を感じたからこそ見つけた(もしくは見つけようとしている)なにか……。RUST=錆のあとには新しい誕生が起こるのではと、これからのダンサー・鈴木竜に期待してしまう公演でした。
『AFTER RUST』は、ダンサーが商品/資本である身体とどう向き合っていくかという“働き方/生き方”でもあるようです。この作品は、ダンサーの業そのもの、とも言えるかもしれません。
自身の生きる武器と向き合う姿を、ステージの上でさらけだす様子を見せてもらえるのは、いち観客としてありがたく、同時に、自分が生活し働くうえで、自分自身ときちんと向き合って突き詰めているのだろうかと問いなおす作品でもありました。
“ダンサー”という枠を越えて、切り拓くちから
赤裸々にダンサーとしての自分を人前にさらすのは、彼の強い信念と冷静さと情熱があるからだと思えてなりません。
というのも、竜さんはこの作品を創作するにあたってクラウドファンディングをおこない、以下のような文章を書いています。
あなたにとって「芸術」とはなんでしょうか?
「芸術」は、あなたの生活に必要ですか?
「芸術」は、社会にとって必要ですか?
(中略)
僕の答えは“イエス”です。芸術は僕の人生に必要不可欠なものであり、芸術のない社会はとんでもなくつまらないものだと考えます。今回のこのクラウドファンディング活動は、僕が作品を作るためだけのものではなく「100万円集められるくらい芸術を必要としている人がこの世にいる」ことを確かめるためでもあり、僕のような若手作家が「鈴木竜にできるなら私もできるはず!」と思ってもらうためのクラウドファンディングです。このままでは日本の芸術は未来に進むことができません。我々若手作家を助けていただくことで、芸術を少しでも皆さんの身近に発信することができるようになるはずなのです。
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「なぜ踊るのか」「なぜ芸術が必要なのか」「芸術のためになぜクラウドファンディングするのか」……竜さんの言葉は明確です。身体で誰かを説得できるだけでなく、理路整然と言葉でも人を説得できる、希有なダンサーだと思います。実際、この文章はとても反響があったようです。
『AFTER RUST』の上演が決まってから2年。
フランスで独り作品を創り、世界各地でソロ公演をして、やっと日本で凱旋公演。おそらく大きなプレッシャーや孤独のなかで、自身の錆と、その先の可能性を見つめたのだろうと想像します。
個人的には、『AFTER RUST』をルーマニアで観てから8ヶ月。この公演が日本で上演される日を前に、いち観客ながらとても嬉しいです。
▼『AFTER RUST』公演概要
※写真提供:シビウ国際演劇祭運営広報