【本編18】ひとりぼっちの娘
メルマガの活動が順調に進み、仲間も増え、社長、副社長、常務等の経営幹部たちからも賞賛の言葉をいただき、コンサル会社主催のセミナーで講演をしたことにより社外の皆さんからも絶賛されるし、私は有頂天になりかけていました。
全社メルマガを始めて3ヶ月が過ぎた頃、ふと思い立って私は娘に感謝の気持ちを伝えました。満面の笑みを浮かべて。
「お父さんなあ、T(娘)の福祉標語のお陰で、たくさんの人たちから誉められたんだよ。あの標語には助けられたよ」
すると娘は、なぜかうつ向いてしまい、何も言わないまま泣き出してしまったのです。
「どうしたの?」
娘は、泣きながらしばらく黙っていましたが、やがて重い口を開きました。
「お父さんはいいなあ、みんなが守ってくれて。Tのことは誰も守ってくれない」
私は意外な展開に狼狽しながら、娘に事情を訊きました。
娘のクラスにリーダー的な女生徒がいました。その娘はうちの近所に住んでいたのですが、人目をひく美少女で、勉強もできる娘でした。そしてなによりも勝気な娘でした。
だから、なんでも自分が一番でないと気に入らないようでした。賞賛されるのは自分だけでいい。
そんな娘だから、うちの娘が福祉標語で全校代表になり、脚光を浴びたのが気に入らなかったようです。周りの女子たちに何かと理由をつけて娘と口を聞くことを禁じていたのです。
「Tちゃん、なんかいい気になっているよね」
娘は孤独な日々を送っていました。休み時間も女の子たちの輪に入れてもらえず、いつも一人で過ごしていたようです。以前、私が教えてあげた『ハッピーバースデー』の本を娘も気に入っており、「あすかちゃんのようにならなきゃ」と何回も何回も繰り返し読んでいたのです。
健気にも、親に心配を掛けてはならないと、3ヶ月近くも誰にも言えず一人で苦しみ続けていたのです。そんな折、能天気な私の態度にとうとう堪え切れなくなって、泣き出してしまったのでした。娘が何回も何回も繰り返し読んでいた『ハッピーバースデー』は、黄ばんでボロボロになっていました。
私は、娘のそんな様子に全く気付かずに浮かれていた自分が恥ずかしくなりました。申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。「いじめ」なんて他人事のように思っていたのですが、いざ自分の子供に降りかかってきた今、うろたえ方は尋常ではありませんでした。
妻とも相談した上で、リーダーの娘ではなく、ナンバー2の女生徒のところに事情を聞きに行くことにしました。元々娘とは一番の仲良しでしたから、話せばわかってくれると思ったのです。
娘も連れて3人で彼女のお宅を訪ねました。彼女のご両親とも顔見知りだったので、いざとなったら親に事情を話して協力してもらおうとも思っていました。
玄関の呼び鈴を押すと、彼女本人が出て来ました。そして、私たちの顔を見るなり、いきなり泣き出してしまったのです。
私たちが何のために訪ねてきたのか、すぐに察したようでした。実は、彼女自身も娘を仲間外れにしていたことをずっと苦しんでいたのでした。その後、娘と二人で話していたので、私たちは後から出て来た彼女のお母さんに事情を話しました。
翌日から、娘を取り巻く状況は一変しました。ナンバー2の彼女が娘を仲間外れにしないようにみんなに働きかけてくれたのでした。
今回の出来事は、身近な家族のことが見えなくなっていた私に、大きな教訓を残すことになりました。
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