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【人相学】『武者鑑』舞妓静/九郎判官義經/鬼一法眼/皆鸖姫
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舞妓 静
静は、磯の 禅師が 女にて、義経の 愛妾なり。義経の 行衛を 尋問ん為、鎌倉に 召寄られしかども、更に 其 行衛を 知ずと ● 後、言をいはず。
或日、梶原景茂、静の 旅宿に 来りて、我 妾にせんといふ。静 大いに 怒りて、散々に 耻かしむるにぞ、面目を 失ひて 帰り、鎌倉殿へ ■ [■は言+免] 々しけるゆへ、適 義経の 胤をやどせしに、誕生を 待て 是を 安達に 命じて 殺さしむゆへ、静は 歎き 哀みて、後 尼となりて、嵯峨の 亀の尾山に 住ゐたるが、春我 廿七才にて 死すとかや。寔に 貞烈の 美婦なりしが 惜かな。
乳の 頭 引込で 少しゆがみありしは、子有て 育たぬの 相といへり。是、符合して 左もあるべきかとも思はるゝことぞかし。
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九郎 判官 義經
義経は、義朝の 九男にして、幼名 牛若丸、又、舎那王丸といふ。寔に 秀才英智の 良将にて、戦へば 勝、攻れば 取、其 神機妙計 量るべからず。後、兄 頼朝と 不和になり、竟に 衣川にて 戦死すといへど、其 実は 蝦夷より 韃靼に 攻入、国王の 壻となりて、子孫 今以て 繁昌すと 言り。
義経は、全身 五尺に 足ぬ 小男にて、相貌 至つて 宜からず。眉薄く、毛上へ 生、所々 抜たるやうに 見へて、兄弟 別/\になり、中睦じからぬ 相なり。又、眼尻に 乱れたる 皺ありて、常に 舌を 以て 唇を 嘗ることあり。是、女色に 溺れて 禍あるの 相なり。併、亦 口大にして、唇紅に 光りありて、耳に 黒子あり。是、聡明にして、運 能の 相もありしといへり。
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鬼一法眼
鬼一は、伊豫國 傔仗律師の 孫、吉岡憲清の子なり。幼少より、安倍の泰長を 師として、暦筭推歩の 術を 究め、又、兵書に 心を 委ね、鞍馬に 祈りて 多聞天の 示現を 蒙り、夫より 左府 頼長に 屬て 奏聞を 経て、六韜三略の書を 申 賜り後、法眼に 叙せられ、門下一千人に 及ぶといふ。是、義経の 師たり。
鬼一は、表容長く、額 高く、眉一文字に 太く、眼大きく、瞳青色に 光りありて、耳長かりし。是、蓺能をもて 名をあぐるの 相なり。
※ 「暦筭」は、歴算。
※ 「推歩」は、天体の運行を測ること。天文、暦などの計算をすること。
※ 「左府」は、左大臣の唐名。
※ 「六韜三略」は、周の時代の兵法書『六韜』と『三略』。
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皆鸖姫
姫は、鬼一の 女にして、或は、桂姫ともいふ。義経、彼 六韜を 看ん 縡を 欲すれども、鬼一未 許さず。故に、皆鶴と 契りて 彼書を 潜み 出さして 視ることを 得たり。後、皆鶴、乾姫を 産り。是、頼政の 孫、有綱の妻たり。
皆鶴は、傾国の 粧ひありて、其頃 都に 名高き 美人なるが、徒に 義経と 通じて 其愛念の為に、父の 秘書を 看すること 何とか論ぜん。顔と腹とは、黒白の 違ひならずや。去ながら、其 男の為には 貞ともいふべき欤。皆鶴は、口もとに 常に 少さく 笑ふときは大にして 舟のごとし。是、夫婦和諧の 相あり。
※ 「傾国」は、君主が心を奪われて国を危うくするほどの美人のこと。絶世の美女。
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