
【観音霊験記 秩父巡礼】第二十番岩の上別当内田定金/寺尾村の孝子

『観音霊験記 秩父巡礼二十番岩の上別当内田定金 寺尾村の孝女』

観音霊験記 秩父順禮 二十番 岩の上別當 内田定金
苔むしろ 敷てもとまれ 岩のうへ
玉の下も 朽はてる身を
小男鹿も 月に寝にこよ 岩の上

寺尾村の孝子
當山は白河院の御建立にして、遥下に荒川の水、藍のごとく渦まきてながれ、絶頂は峨々として、その風景言葉に尽しがたし。
灵驗の多きなかに、此 寺尾村の者、老たる母を川むかひの宮路といふ所におきて、朝夕に見まひけるに、或時ふと病ひのよしを告来れば、急ぎ行んと、この麓の淵に来りしところ、折しも大雨なかばにて、俄に水まして、歩行わたりすること叶はず。

とやせん角やせんと、心あせるうち、水は弥増りするばかりなれば、仮 今 命を捨るまでも、母の安否を知らずにやはと、既に渡らんとする所へ、見馴ざる童子 舟に棹さして「是に乗れ」といへば、夢のごとくに悦びて、岸に上り、「御身は何處の者」と聞ば、「我はあの岩の上の者也。汝が孝心を憐みて渡す也。母も兼て我を信ず。疾々ゆけ」といふ。
したに舟は失て跡なければ、扨は観音にましませしかと、岩の上をふしをがみて、急ぎ母に見し所、最早悩みも癒ければ、しか/\と物語れば、ともに利益を信仰して、一生供養をもなしけるとぞ。
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