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【京都】栂尾門前雨中

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『都名所之内

栂尾山とがのおさん 高山寺こうさんじの門前、清滝きよたき川にかかる白雲橋の秋雨の景色です。

栂尾とがのお山は京都市の北西に位置し、西から東に高山、槙尾まきのお山、栂尾とがのお山と並んでいます。高尾山には神護寺じんごじ、槙尾山には西明寺さいみょうじ、栂尾山には高山寺こうさんじがあり、三つあわせて「三尾さんび」と称される紅葉の名所です。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『京都名所案内記

それぞれの門前には清滝川が流れ、神護寺は高雄橋、西明寺は指月橋、高山寺は白雲橋が架けられています。

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栂尾山には、古く奈良時代から寺院があったようですが、現在に至る高山寺は建永元年(1206年)に明恵みょうえ上人によって創建されました。

華厳と真言密教を融合した厳密ごんみつという独自の宗教観を築いた明恵上人ですが、日本に茶を普及させた人としても知られています。「あかあかや  あかあかあかや  あかあかや  あかあかあかや  あかあかや月」という唄を詠んだ人というと、ピンとくるかもしれません。

江戸時代後期に書かれた『梅山種茶譜畧』には、建久二年(1191年)に宋から帰朝した栄西が筑前国 脊振せふり山に茶の種を植えたこと、栄西から種を貰い受けた明恵上人が高山寺に植えたこと、高山寺には十一か所の茗園めいえん(茶畑)が作られ「栂尾深瀬三本木」と呼ばれたこと、明恵上人が日本で初めて煎茶を作ったこと、足利義満が大内義弘に命じて栂尾の茶種を宇治に植えさせたことなどが記されています。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『梅山種茶譜畧

明治時代の観光ガイドブック『京都名所案内図会』の説明が分かりやすいので引用してみます。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『京都名所案内図会 和1冊(上)

建仁寺の開山栄西、宋国に渡り、茶実ちやじつを得て帰朝し、筑紫の岩上に植る。明恵、之を聞て、栄西に乞ひ、之を栂尾山に移す。その畑を深瀬ふかせ三本木さんぼんきといふ。大に製茶をなして、時の天子に献す。是れより恒例となる。

其後、足利氏、之を宇治に移し、植し給ふ。けだし、吾国わがくに上古じようこよりあれども、大に盛大ならしめ、国益を興す。尤も二師の力なり。

宇治の茶摘みの様子
出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名物圖會 二

貞信が描いた高山寺門前は、紅葉の季節を迎えた栂尾山に夕立のような強い雨が降っています。

西の空が明るくなっているので
もうじき激しい雨も上がりそうです
水を増して流れる清滝川
水仕事をする女性の姿が見えます
蓑笠をつけて橋を渡るひとの姿も

茶は秋になると、椿に似た白い小さな花を咲かせます。明恵上人が植え育てた茶畑にも、雨に濡れながら白く可憐な花がたくさん咲いていることでしょうね。

きよたきの せぜのいはなみ たかをやま
ひともあらしの こゑぞさびしき

明恵上人



参考:国立国会図書館デジタルコレクション『京都名所案内記』『京都名所案内図会 和1冊(上)』『煎茶小述』『日本仏教文化史の研究(明恵上人歌集評釋)』『栂尾明恵上人伝記』高山寺Webサイト「高山寺について」「明恵上人」高雄保勝会Webサイト「高雄 観光スポット(周辺マップ)」

筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖