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【観音霊験記 秩父巡礼】第二番大棚山真福寺/大棚禅師
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『観音霊験記 秩父巡礼第二番大棚山真福寺 大棚禅師』
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観音霊験記 秩父順禮 第二番 大棚山真福寺
めぐり来て ねがひをかけし 大棚の
誓ひもふかき 谷川の水
◇
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大棚禅師
禅師は、閑寂の地を好みて、近邊の鬼丸といふ岩崫に籠りて他念なく讀経しけるに、ふしぎと一人の老婆 日夜詣りて洞中の観音を拜み、或は、花をさゝげ菓を供じて、禅師をも拜すること屡なれば、汝如何なるものと聞ければ、涙をながして 我は此里の農家某の妻なりしが、嫉妬慳貪の惡念によつて夜行鬼となり、出離の期もしらざりしに、師が読給ふ普門品の声に結縁して、此ほど仏菓を得たり。
※ 「慳貪」は、けちで欲深いこと。
※ 「出離」は、仏語。迷いを脱するために仏門に入ること。
※ 「普門品」は、観世音菩薩普門品第二十五の略。観音経のこと。
※ 「結縁」は、仏語。仏・菩薩が世の人を救うために手をさしのべて縁を結ぶこと。
※ 「仏菓」は、仏語。仏道修行の結果として得られる成仏という結果のこと。
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是によつて、斯は日夜参詣せし。何卒しか/\の地に一宇を建給はれ。今日の布施にとの竹の杖を置といひ捨て失ぬ。然がゆへ、禅師今の地に観音堂をたつる。その杖、今に宝蔵にあり。禅師の名を仰ぎて、地名を大棚といふもふしぎの因縁なり。
※ 「一宇」は、一棟の建物のこと。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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