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絵本貝歌仙(2)
にしき貝
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にしき貝
こきまぜに 色をつくして よる貝は
錦の浦と みゆるなりけり
さま/\の貝、いずれもいつくしけれど、すぐれたる色こそにしきならめ。おほくの人たれかみにくからん。そのうちにも、わけてたちふるまい 心をつけて世の撰に あひ給ふべし。
※ 「いつくし」は、厳し。ここでは美しくかわいらしいという意味。
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いろ貝
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いろ貝
いろ/\の 貝ありてこそ ひろはめれ
ちぐさの浜の あまがまに/\
品ゞおほき中にて、これをと ひろいとるなり。まに/\は、心まかせにといふ詞なり。これはあし、彼は見ぐるしと難をつけ、きずをいふは、あしし。物ずきはおもひ/\なるべし。
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ほらの貝
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ほらの貝
山伏の ほらふくみねの 夕ぐれに
そこともしらぬ すゞの うわ風
古木いわほのうたに
かゝり雲おそろしき深山に 法螺ふく行者のそこともしらぬ
難行 苦行 をおもひつゞけたるうたなり。何の身もらくなることばなし、とおもひくらべて、つとめにおこたるべからず。
※ 「うわ風」は、草木などの上を吹きわたる風のこと。上風。
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みやこ貝
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みやこ貝
ともすれば 恋しきかたの 名におゑる
みやこ貝をぞ まづひろいぬる
故郷忘しがたし といふこゝろをよめるうたなり。芸さへあればとて、あながちに旅他国をこのむべからず。立はなれては、ゆかしさわすれがたきは、ふるさとなりとぞ。
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うらうつ貝
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うらうつ貝
田鶴さはぐ あしのもと葉を かきわけて
うらうつ貝を ひろひつるかな
鶴のむれゐる芦間に貝をひろふけしきを専によめるうたなり。かきわけてと、ちからをいれたるは、かりそめの手づさみも、ふところ手しては、なりがたし。たゞ/\まめやかにつとむべきにぞ。
※ 「うらうつ貝」は、ウラウズガイのこと。
※ 「田鶴」は、鶴の別名。
※ 「手づさみ」は、手遊み。手に持って遊ぶこと、暇つぶしなどをすること。
※ 「ふところ手」は、懐手。人にまかせて自分では何もしないこと。
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さたへ貝
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さたへ貝
さたへすむ 瀬戸のいはつぼ 求 出て
いそしきあまの けしきなるかな
いそしきとは、いそがしきのことばなるべし。あまは海辺のさもしき人をいふ。これに付ても、下ゞは旦暮、手あしの 労 のいとまなし。たちゐにくるしきを、うへつかたは あはれとしろしめさるべきなり。
※ 「さたへ貝」は、サダエ。栄螺のこと。
※ 「うへつかた」は、上つ方。上の方。
※ 「しろしめさる」は、知ろしめす。
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Photo by mominaina
千鳥貝
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千鳥貝
はまちどり ふみおく跡の つもりなば
かひある浦に あはざらめやは
文字は、鳥のあしあとより始れり。詩文は勿論、歌の道なんどこのまね人はむだことのやうにおもへども、かきおく数のつもりたらば、くちせざる代ゝにつたへて、こゝろしる人にもあふべし。
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すゞめ貝
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すゞめ貝
波よする 竹のとまりの すゞめ貝
うれしき世にも あひにけるかな
雀は竹にとまり、人は誠にとゞまる。それもさはがしき時は、いかにせん。かゝるおさまれる御代なればこそ、忠孝のおしへに身をまかせ侍るは、げに/\うれしよろこばしとなり。
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いた屋貝
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いたや貝
あやしくも うらめづらしき いたや貝
とまふくあまの ならひならずや
金殿 玉楼 は、なつ涼しくて、冬あたゝかなれども、末ゞはあつきにつけ、さむきにつけて、くるしみおほし。笛竹のほそき、たるき、あしの葉にて家をふきたる賤家のいぶせさ、此うたにて見るべし。
※ 「とまふく」は、苫葺く。菅や茅などを粗く編んだむしろ(=苫)で屋根を葺くこと。
※ 「賤家」は、農家や漁師などの家のこと。
※ 「いぶせ」は、ここでは、貧しくみすぼらしいという意味。
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イタヤガイの放射肋が垂木のように見えますね。
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あこや貝
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あこや貝
あこやとる ゐ貝のからを つみ置て
宝のあとを みするなりけり
殻を見て 実をしるならひなし。おきたることにて 其人のおこなひしるゝなれば、いさゝかのわざもつゝしみ給ふべきなり。
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あわび
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あわび
なべてよの 恋路にいかで うつしけん
あわびの貝の おのが思ひを
世の中に 片思 ほどかなしきものはあらじなるは、いなおもふはならずのたとへ、蚫のかた/\となげくは、さることなり。忠臣賢人の世にあわぬいか斗にや。
※ 「いなおもふはならずのたとへ」は、成は厭なり思うは成らずという諺のこと。実現することは気に入らない一方で、思いを寄せるものはうまく行かないことの喩え。
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Photo by mominaina
かたし貝
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かたし貝
我袖は いつかひかたの かたし貝
あふてふことも 波にしほれて
蚫よりまさりてかなしきは、ふたつありたる貝がらのかたしとなりたる 残花やもめならん。よく/\心を正しく、うき名のおそれあるべし。
※ 「かたし貝」は、二枚貝の貝殻が離れて一枚(片側だけ)になったもののこと。
※ 「ひかた」は、干潟。
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うつせ貝
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うつせ貝
波のうつ みしまの浦の うつせ貝
むなしきからに われやなるらん
世の波風のはげしさには、命 もむなしくなり はつべきやとなげきたり。苦の世界と悟て、いよ/\その実をうしなふべからず。
※ 「うつせ」貝は、 中が空になった貝がらのこと。空貝、虚貝。
※ 「はつべき」は、果つべき。ここでは死んでしまうという意味。
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※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌』『小倉百人一首 明治新刻』『貝尽浦の錦 2巻 [1]』『貝尽浦の錦 2巻 [2]』『目八譜15巻【全号まとめ】』『甲介群分品彙【全号まとめ】』『日本介譜 1-5【全号まとめ】』
筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖