江戸の花名勝会 請地番外(尾上栄三郎)
浄瑠璃・歌舞伎の『近頃河原の達引』をモチーフにした張交絵です。
『お俊伝兵衛』の心中ものに、四条河原での達引と親孝行な猿回しを加えたアレンジ作品になっています。「堀川の段」のラストシーンは、家を出ていくお俊と伝兵衛。ふたりが心中することを承知しながら見送るお俊の母と兄。兄の与次郎は猿廻しで、ふたりの門出の祝いにとめでたい猿回しをして送り出します。
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国立国会図書館デジタルコレクションで「堀川の段」の語りを読むことができるので、よかったら読んでみてください。
・『義太夫百番 上(おしゆん傅兵衛近頃河原の達引 堀川の段)』
また、古い上演の音源が一部あるので、最後に掲載します。こちらもよかったら聞いてみてくださいね。👂
伝兵衛さん
紅葉の色のかわるのは あきば
また色づくのも 秋葉
千葉山と号して 請地むらなり
此辺を庵崎と唱ふ 松の名所也
「千葉山と号して請地むらなり」は、秋葉大権現社のことです。明治以前は神仏習合寺院だったので、境内には秋葉権現を相殿する千代世稲荷社 と千葉山 満願寺がありました。また、秋葉大権現社の周辺は「庵崎」と呼ばれていました。
江戸名所図会の挿絵からも、この辺りが松の名所であったことが分かります。
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わかの浦 秋葉の紅葉
むかふ島にも 名所がござる
一に牛の御前 二に木母寺
三に三めぐり 四にしらひげよ
あづまのはしだて あきばのやえん
あきばさんは よけれども
さるといふ字が 木にさがり
『和歌の浦』という小唄にかけて、向島の名所を謡っています。
「牛の御前」は牛御膳王子権現社(現在の牛島神社)、「木母寺」は梅若山権現社木母寺(現在の木母寺)、「三めぐり」は三囲稲荷社(現在の三囲神社)、「しらひげ」は白髭明神(現在の白鬚神社)のことです。
「あづまのはしだて」は、東橋を天の橋立に見立て、「やえん」は野猿。
『和歌の浦』は「切るという字が気にかかる」で終わりますが、ここでは「猿といふ字が木にさがり」と言い換えて、とても洒落ています。
ろく魚の 水はふかや こほる月 でしょうか。
「ろく魚」は鯉のことと思われます。鯉の別名を「六々魚」といいます。首から尾にかけて一列に三十六枚の鱗があることから、六×六=三十六で「六六魚」だそうです。
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敷ふかと ○けふ迄に 紅葉哉
百明
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江戸の花、名勝会には、「鯉 大七」「猿 松寿亭 御休所」「穴うなぎ」とあります。
「鯉 大七」は秋葉山(秋葉大権現社)に隣接する料理屋で、江戸時代の向島の地図に「料理屋大七」の文字が見えます。
向島の「大七」は、お隣の「武蔵屋」と並んで有名だったとみえ、江戸の料理屋を題材にした双六にも取り上げられています。
伝兵衛さん
紅葉の色のかわるのは あきば
また色づくのも 秋葉
参考:国立国会図書館デジタルコレクション『江戸名所図会 第4』『江戸買物独案内 2巻付1巻 飲食之部』『有朋堂文庫 〔第95〕』『芝居の裏おもて』
『マンガでわかる文楽』(誠文堂新光社)
以下のリンクから義太夫の古い音源を聞くことができます。
国立国会図書館デジタルコレクション『近頃河原達引お俊傳兵衛(堀川猿回しの段)』(竹本 津太夫/鶴澤 友次郎 [三味線]/鶴澤 友造 [連弾])
(八)(九)(十)(十一)(十二)(十三)(十四)(十五)(十六)(十七)(十八)
有名なセリフの「そりゃ聞こえませぬ 伝兵衛さん」は(十一)00:45~です。三味線の(十七)もお薦めです。
筆者注 ○は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖