『料理綱目調味抄』(3) 可用汁魚并貝類の部
「本」「二」「三」「皷」「清」などの表記について、「汁の部」に見方が記載されていますので、そちらを参照してください。
→ 『料理綱目調味抄』第二巻(2) 汁の部 👀
可 用 汁 魚 并 貝類の部
鯛
「本二三」「皷本」「清二三」 皷にて取合、大根、葱等の事は非料理。若身、又、うすみを少ひどりて、牛蒡、蕗、椎たけ、なめ、などの取合よきは料理也。「二三」の清は、大具にて取合、かろくすべし。かき、鯛、とろゝ汁、奥に註。一書、土筆入たるを「野いり」、かたのりの入たるを「もしほいり」、芹の入たるを「いそいり」と名づくと云々。
※ 「皷」は、味噌のこと。
※ 「ひどりて」は、火取りて。火であぶること。
※ 「かたのり」は、海藻の一種。堅海苔。
※ 「もしほ」は、藻塩と思われます。
鱸
「二清」 取合、青昆布、みる。吸口、□ 荷茸、しそ、葱、柚。皷にては大具もよし。魚一色に吸口、或は胡椒。
※ 「青昆布」は、昆布を銅鍋でよく煮ると青緑色になるそうです。(参考:『廣益秘事大全:民家日用 二(青昆布のこしらへやう)』)
鱧
「本二三」「皷」「清」 皆、すり身をかさね、或は火どりて用ゆ。大具、小具、擦大根に葱五分切、線ろふに、なめ、石茸、うど。吸口、柚。
※ 「線ろふ」は、誤読しているかもしれません。
鯃
「本二」「皷」 鯛におなじ。
ふぐもどきは、皮を引、うすく切、うすみそ。吸口、柚、葱。
藻魚
「本二」「皷」 石茸。
ふぐもどき、皮引、うすく筒切、右におなじ。
河豚
「本」 皷うすく、赤みそ、後に、糂汰を加。皮引、うすく筒に切、いく度も晒、烹過たるは甚悪しゝ。吸口、葱、東武には陳皮加。
※ 「糂汰」は、糂汰味噌。五斗味噌のこと。
※ 「東武」は、武蔵国の別名、または江戸のこと。
鱣
「本」「薄皷」 皮を引、筒に切、ゆがきて、石茸。吸口、葱、こせう。
※ 「こせう」は、胡椒。
鮟鱇
「本三」 溏みそ、和みそ。吸口、胡椒、葱。
※ 「溏みそ」は、溏皷。
※ 「和みそ」は、和皷。袱紗味噌。
鮮鱈
「本二三」 溏むよし。「清」 雲を賞翫す。雲は別鍋にて煮ざれば、にごりて悪しゝ。吸口、葱、こせう。
※ 「溏むよし」は「溏も良し」。鱧のふりがなのように「も」が「む」に転訛しているようです。
※ 「雲」は、白子のこと。雲子。
塩鱈
「本二三」「清」 青昆布、みる、吸口、葱、こせう。皷ならば、取合、水菜、吸口、柚。
鯨
「本」「皷」 具、身皮共に用。身は清にも。何べんもゆがき、又、水によく晒て。吸口、柚、葱、こせう。
※ 「何べんもゆがき」は、何遍も茹がき。何度も茹でて。
鮭
「本皷」 具。但し、初鮭 賞翫の時、たま/\汁に用る也。さいに切、又、少火どりてもよし。
※ 「賞翫」は、味のよさを楽しむこと、賞味すること。しょうがん。
鯉
「本」「皷」 和布、又、おろして、切目なるには、石茸、蕗、笋子を烹かため、さいにして加。吸口、うど、木のめ。
※ 「和布」は、わかめ。
■ [■は魚+舟]
「本」「皷」 右のごとし。又、身をおろし用る時は、さしみのごとく作り、冷水に晒。皷汁の甚あつきに入、其まゝ出す。取合、吸口、右のごとし。
□ 條
「本皷」「二三清」 海苔、水菜、芹、針牛蒡、なめ、此内を用。吸口、うど、ふきのたう。
鱝
「本皷」「二清」 身を少火どり、大具。石■ [■は艹+専]、葱。吸口、柚、木のめ。
蜆
「三」 薄みそ。糂汰を加。取合、小菜。吸口、青唐がらし。
蛤
「本皷」 取合、ほしな、むき身にして、椀に具一ツ二入たるもよし。後叚の汁、茶の湯の汁にし、又、あつめ汁に交たるもよし。
※ 「後叚」は、後段。饗応の時、飯の後にさらに他の飲食物を出すこと。また、その飲食物のこと。(参考:『大日本国語辞典 巻2(後段)』『新流料理いろは庖丁(後段之部)』)
貝類
「本二三」「皷」「清」 ともに皆、取合もの也。ちさ汁に花蚫、花いか、あかゞい、蛤、ほたて、たいらぎ、みるくい、あさり、かき、まて。たんぽゝ、よめな、なめ、皆 取合。
※ 「花蚫」は、花鮑のこと。鮑の肉に裏から縦に切り目を入れて、小口切りにして熱湯にさっと通したもの。
※ 「花いか」は、ここでは烏賊の表面に縦横に切り目を入れて、さっとゆでたもの。
※ 「みるくい」は、みる貝のことと思われます。
鰕類
「本二三」 ちさ、わかめ、ほしな、生のり、もづく汁等の取合也。鰝、いか、いりこ、のし、くしがいの類。吸口、うど、柚。
※ 「鰝」は、えび。
※ 「のし」は、熨斗。あわびを薄く長く剥いで、引き伸ばして乾燥したもの。
※ 「くしがい」は、串貝。串に刺して干したあわび。
鰌汁
和皷、赤皷よし。大根、牛蒡、茄子、すり山椒、用。一たび煮て、さまし置、用とき、又 煮れば、みそつまらず。ほね和てよし。此汁に限り、仕立きれいなるはあしゝ。
石首魚
ごり汁も、大様右におなじ。夏日の景物也。加茂川の名物也。
※ 「景物」は、その場に興を添えるもの、ここでは料理。
鯛青 渕汁
「皷」 たいの身を和みそによくすり合、あおのりの粉を加。吸口、葱、こせう。一書、鯛の身を少あぶり、すりて、酒にてすりのべ、たれみそをぬるめ、かきたてゝ合せ煮て、後に、だし芋をさして、針くり生が、青のり入、かきまぜて出す。胡椒用てよし。
韮汁
「和皷」 取合、干鱈のほね首をよくあぶり加。美味の肉は不取合。又、塩ひばりはことによし。
水雲
もずくのちりをよく取り、烹たる。和みそを少入、少すり合すれば、もづくかたまらず。ねばり出てよし。取合、焼たうふ、しゐたけ、胡椒。
菜汁
小なは、水なしにゆでゝ、青汁を去、うすみそにて、色の替る程よく煮てよし。吸口、青とうがらし、かぶらな、かぶ、二ツか三にわり、なともにうす白水にてよく煮て、後、和みそにても、赤みそにても、さしみそにすれば、かろくてよし。
※ 「白水」は、白米のとぎ汁のこと。(参考:『大日本国語辞典 巻2(白水)』)
納豆悖
青豆をよくすり、和みそすり合せ、青葉、豆腐、如 常、加ふ。吸口、針、柚、からし。
集汁
「和皷」 何にても、菜類二三種、或は、焼だうふ、うすわかめ、椎茸、茸類、笋、のり等を、加摸する也。吸口、うど、柚、木のめ。
※ 「焼だうふ」は、焼豆腐。
一書 蝦夷汁
からさけをよく洗ひ、あぶり、いく度もぬらして、あぶり、小く作り、あつゆにひた/\に漬、ふたをして、昆布をあぶりくだき、一所にほとばして、やきみそを酒にてすりのべ、各打入てあふる。汁を吸ほどにしたゝむべし。からみ、さんせう、こせう。
※ 「からさけ」は、乾鮭。鮭のはらわたを取り除いて、塩をせずに陰干しにしたもの。
一書 から鮭 冷汁
からさけを、かつほのごとくうすくけづり、しろ水をかへらかし、塩酒かげんして可用。
※ 「かつほ」は、鰹。
一書
清汁の下地の仕やう、かつほだし、昆布だしは、常のごとし。皷を紙につゝみ煮出し、取捨べし。かくしみそとて、何れのすまし汁にもよく合もの也。物により、芋のねばりだしをも、さし加ふべし云々。
※ 「仕やう」は、仕様。
※ 「委」は、くわしくの意。
筆者注 ●は解読できなかった文字、□はパソコンで表示できない漢字を意味しています。
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