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【古今名婦伝】乳母浅岡(めのとあさおか)
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乳母 浅岡
治國に、■臣を禦ぐは、 慮 を竭しても難かるべし。浅岡単身にして、克幼君を傳立奉らせ、荊筵 に座して兎の毛もて突たる程の障碍もあらせず。終に、大忠成就に至る。大丈夫たりとも為得べきや。 [■は女+女+干]
臺子の童炊、児戯に非ず。篭の雀の千代八千代、傳ふる功績を演戯に取組、又、浄瑠璃に語もして、感ぜぬ者こそなかりけれ。
面扶持を へつるか粟の 鼠共
※ 「臺子」は、茶道具の棚物のひとつ。風炉・釜・水指などの諸道具を飾るもの。台子。
※ 「児戯」は、子どもの遊び。児戯。
※ 「演戯」は、歌舞伎。
※ 「面扶持」は、家族の人数に応じて与えられた扶持米。
※ 「へつる」は、かすめ取るという意。
※ 「面扶持をへつるか粟の鼠共」の句は、其角が編纂した句集『華摘』に掲載が見えます。
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浅岡は、江戸時代前期を生きた女性です。
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没年不詳(江戸時代前期)
浅岡 は、江戸時代に創作された歌舞伎・浄瑠璃『伽羅先代萩』の登場人物です。ストーリーは仙台藩伊達家で起きたお家騒動が題材になっています。
浅岡について、モチーフとなる実在の人物がいたのか、架空の人物であるのか、詳しいことは分かっていません。実在モデルでは、伊達綱宗の側室の三沢初子とする説や白河義実の妻とする説など、諸説あるようです。
※ 浅岡は、政岡とも呼ばれます。また、作品によって月岡、浅香とも書かれるそうです。
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浅岡が肩に抱いているのは、幼い主君 鶴喜代丸です。
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鶴喜代丸の城中は、お家乗っ取りをたくらむ逆臣方と主君を守り育てる忠臣方が攻防する疑心暗鬼うずまく世界でした。
毒殺を警戒した浅岡は、家臣が用意した食事を主君の膳には上げず、自ら調理したものだけを食べさせました。また、浅岡には幼い男の子があり、その子を毒見役に立てました。名を千松と言いました。
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『絵入倭文範:懐中義太夫 明治16年9月』
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ある時、逆臣方の管領 山名持豊の妻 栄御前が浅岡たちのところを訪れ、持参したお菓子を鶴喜代丸に差し出します。
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さあさあ召し上がれと促しているのは、逆臣方の悪人 仁木弾正の 妹 八汐です。
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鶴喜代丸が口に運ぶのをじっと見守る栄御前。その背後から千松が様子をうかがっています。
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管領家が主君に持参した菓子を毒入りと疑うこともできず、苦慮する浅岡。
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ぎっしりと詰められています
とその時、状況を察した千松が走り出て、菓子を手づかみして口に入れました。果たして … 千松は吐血して苦しみ始めます。たくらみの露呈を焦った八汐は、すかさず千松の首に懐剣を突き立てました。管領家の菓子に対して無礼であるというのです。
わが子が毒に悶え苦しみ殺されゆくのを目の当たりにしながらも、涙ひとつこぼすことなく、浅岡は鶴喜代丸を守る姿勢を崩しませんでした。
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『鶴千代 菊之介・乳母政岡 沢村訥升・千松 源平』
主君のためにわが子を犠牲にした浅岡、幼いながらも主君のために自らの命を犠牲にする千松。ふたりの忠義は人々に賞賛され、歌舞伎や浄瑠璃の人気演目のひとつとなりました。
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『善悪三拾六美人 浅岡の局』
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話が長くなるので『古今名婦伝』の絵に戻ります。
浅岡の足もとには、巻物をくわえた一匹の鼠が描かれています。
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これは、浅岡の手に渡った連判状(逆臣方の名前が連なる巻物)を、鼠に化身した仁木弾正が取り返すところです。
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『局政岡・仁木弾正・男之助・河津三郎・股野五郎・き世川・菖蒲前・頼政・井ノ隼太』
とても長い物語ですが、最終的には勧善懲悪。弾正は討たれ、鶴喜代丸の本領安堵で幕を閉じます。
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主君である鶴喜代丸を高く肩に掲げた浅岡が、ねずみに化身した仁木弾正を手持ち行灯で照らしています。善悪と明暗のはっきりとした構図になっていますね。
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面扶持を へつるか粟の 鼠共
つらぶちを へつるかあわの ねずみども
参考:『木曽六十九駅 蕨蕨手村・乳人政岡』『見立十二支の内子 仁木弾正・荒獅子男之介』『山中鹿之助 片岡我当・仁木弾正 坂東彦三郎・井筒外記左衛門 関三十郎・細川勝元 片岡仁左衛門』『古今名劇二百種 第1集』『やまと文範義太夫丸本』『絵入倭文範:懐中義太夫 明治16年9月』(国立国会図書館デジタルコレクション)
Wikipedia「政岡」「伽羅先代萩」
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