【大阪】中の嶋蛸の松

出典：国立国会図書館デジタルコレクション『中の嶋蛸の松（浪花百景之内）』

章魚松たこのまつは、久留米くるめ候こうの御蔵をんくら邸ゆきの浜にありて、則すなはち 中之島なかのしま 田蓑橋たみのばしの西なり。老鬱おううつたる古松こしようにして実木みきに連縄しめを結ゆひ、鉄てつを以もつて枝えだをため、そのかたち八方はつぽうに繁茂ほんもなすゆへ、是これに依よりて号なづけしなるべし。

此この辺ほとり 惣すべて諸侯しよこうの御邸やかた建たちつらなり、前まへには大川の流ながれをひかへて 風景ふうけいたぐひなく、唐土もろこし漢東かんとうの港みなとに似にたりといふ。夏日かじつは、網舟あみふねに興けうじて、此松かげに鯉こいを煮にるなど見るにさへ涼すゞしき心地こゝちぞせらる。

章魚松は久留米候の御蔵邸の浜にありて
則ち中之島田蓑橋の西なり


老鬱たる古松にして実木に連縄を結
鉄を以て枝をためそのかたち八方に繁茂なすゆへ
是に依て号しなるべし

此辺り惣て諸侯の御|邸建つらなり
前には大川の流をひかへて風景たぐひなく

夏日は網舟に興じて此松かげに鯉を煮るなど
見るにさへ涼しき心地ぞせらる

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