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【観音霊験記 秩父巡礼】第四番荒木/荒木丹下

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第四番荒木 荒木丹下

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい だい四番 荒木あらき

あらたかに まへりてをがむ くわん世音ぜおん
  二世にせ安楽あんらくと たれいのらん

奉額
 やがてさく はなぬくめんと 落葉おちばかな

荒木あらき丹下たんげ
このところすむ 荒木あらき丹下たんげといふものは、慳貪けんどん邪知じやち因果いんぐわ道理どうりらねば、𩻄寡くわんくわ孤獨こどくめぐまず、たゞ惡行あくぎやうをのみわざとせしが、

※ 「慳貪けんどん」は、けちで欲深いこと。
※ 「邪知じやち」は、悪知恵のこと。
※ 「𩻄寡くわんくわ」は、𩻄は男やもめ、寡はやもめの意。

一時あるとき一人ひとり順礼じゆんれい門前もんぜんたゝずみてのうちをこひければ、「かしましや、わが 晝寢らくねさまたげし。いで、のうちを報謝ほうしやせん」と立出たちいで巡礼じゆんれい柄杓ひしやくうばとつて「わがのうちはこれこふぞ」と打擲うちたゝけど、

巡礼じゆんれいはいかるいろもなく「ほどこしなくば言葉ことばにてもすむべきに、にもたちざるものをかく打擲うちたゝくとはなさけなし」といふに、

丹下たんげいよ/\いかりて「そも我國わがくに神國しんこくにて、一粒いちりうこめだにかみたからなるを佛徒ぶつとものにあにほどこさんや。とく/\たちれ」とせむれば、

※ 「のうち」は、ここでは乞食や托鉢僧などに与える金銭や米のこと。
※ 「かしまし」は、やかましいの意。かしまし、かしかまし。
※ 「晝寢らくね」は、昼寝。
※ 「いかるいろもなく」は、怒る色もなく。

まさなきことをのたまへひとは、「かみみたまものなれば、われもそのうちなるを、左程さほどかみたうとむものわれ打擲ちやうしやくするいはれなし。天子てんしたみ父母ふぼにはあらずや。ほどこしうけざれば、われ 飢死うへじにせん。ほとけ自他じた平等べうどう」ととき給へりといふ

それよりいち/\つめければ、丹下たんげ一言いちごんもなく、発起ほつきして、この観世音くわんぜおんふかしんじてだい善人ぜんにんとなりたるは不思議ふしぎ㚑験れいげんなり。

※ 「㚑験れいげん」は、霊験。



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