『料理綱目調味抄』(8) 組焼物の部
組焼物の部
組焼者
魚鳥 二種三種、或、菜類、海苔、炙物の類、取合、何種に 不 可 限。見合たるべし。
東国にて結溝といふには、焼物の外に、何種も盆に盛て出す。盆盛といふ。美饌 を結溝と云。是にや。
※ 「結溝」は、結構でしょうか。
※ 「美饌」は、みごとな料理のこと。
小書
塩焼、漿付焼、皷付焼、青●、板焼、串焼。田楽等、要 註 之。
※ 「漿」は、醤油のこと。
※ 「皷」は、味噌のこと。
焼炙
差別して、要 載 之。
可 用 組焼 鳥の部
雉子
焼鳥の第一とす。故實、奥にしるす。
雲雀
賞翫のもの也。漿付焼、青串焼にも。皷漬もよし。うばしぎ、ぼとしぎ、ひゑどり、むく、つぐみ、すゞめ、はと、いづれもおなじ。子細なし ●● 略 之。
※ 「賞翫」は、味のよさを楽しむこと、賞味すること。しょうがん。
※ 「うばしぎ」は、姥鴫の別名。
※ 「ぼとしぎ」は、ぼと鴫。山鴫の別名。
※ 「ひゑどり」は、鵯の別名。ひえどり。
鶉 并 鴫
四季ともに賞翫なり。漿付焼、漿にうす葛を引けば、鳥かはかずしてよし。皷漬もよし。焼かけん第一也。
※ 「焼かけん」は、焼き加減。
鴈 鳬
板焼はうすく大平に造り、漿に浸し、板の上にのせ焼。いたともに引もよし。鷺、ばん、にはとりの類、皆身を小串にしてよし。
※ 「ばん」は、鷭。
可 用 組焼 魚の部
鯛
小串、漿か塩焼。打付焼は、うす平に切、塩ふり、其まゝ焼、杉の板焼。小鯛は、生・塩ともに、片身ばかりともよし。皷漬もよし。
鮭 鱒
塩焼、漿付焼、小串にも。なま・塩ともによし。うすく ● 塩するを、さすり塩といふ。
※ 「なま、塩ともによし」は、「なま」は生鮭、「塩」は塩鮭。
鰹
塩焼、漿付焼。塩かつほそのまゝ焼。
鰈
いしかれい塩焼、漿いりにも。
鯵
夏日、開き、うすく塩して、干かはかして、片身斗にても、組合によし。東武の中ふくらむよし。塩焼。
鯧
筒に切、漿付焼。身とりて、小くしにも。
※ 「鯧」は、まながつお。
※ 「小くし」は、小串。
玉餘魚
塩焼、漿付焼。組焼には、骨抜きよし。骨ぬき様、細き小刀にて、首の下の大骨と尾の上の大骨を切たち、ゑらの所より小刀をさしこみ、肉とほねを話し、大骨を抜とる。全躰にして骨なくしてよし。
黄□魚
大なるは切目、漿付焼。なま・干なるを焼て、組合によし。
鱝
小串、皷、漿付焼。田楽にして一色もよし。すみそ。
蒲梃
竹に巻た像を名とせり。近代、杉板よし。魚は鱧よし。勢州より東、はむなき所は、鯛、かれい、あまだい、藻魚等の諸魚ニ三種に、いかを交へ用。鯛は中なるよし。仕様、鱧に仝じ。
※ 「勢州」は、伊勢国。
※ 「仝じ」は、同じ。
鱧かまぼこ仕様。大鱧とへいと云ものあしゝ。中鱧の京にて歩荷といふよし。如常、身をくづし、能骨を去り、うす白水にてする。つくは悪し。桶に水を入、すり鉢をのせ、いかにも静に久しくするべし。すり鉢あたたまらば、桶の水をかゆべし。半すりて、やき塩を能ほどに入れ、又、白水を加へ、いか程もすれば、ひめのりのごとく、白くつやおり、時をよしとす。かたきを好人あれども、水かまぼこといふは、いかにも柔らかなるかし。
※ 「能」は、よく。
※ 「白水」は、白米のとぎ汁のこと。(参考:『大日本国語辞典 巻2(白水)』)
※ 「能ほどに」は、よきほどに。
大板に付るは、幅三四寸、長七八寸、かうの高きはわるし。うすく平めに付け、上をひたとなずれば、焼て皮となり、強ばり悪し。なずべからず。
※ 「なずれば」は、撫ずれば。なでれば。
焼やうは、深き大でんぼにいれ、又、でんぼにてふたをして、火つよくたけば、むしやけに成る。これ第一の焼やうなり。第二は、炭火にして、板の下は大よはく、脇に火つよくして、すり鉢か鍋を打きせて、むしやき也。小板は、常のごとく、甲をなづるはあしゝ。
※ 「でんぼ」は、小さな焙烙のこと。(参考:『大日本国語辞典 す-な(でんぼ)』)
鯛のすり身にいかをまぜ、如 右すれば、大やう、はむのごとくなる。いかなければ、ねばりなく悪し。其時は、極上の白米にて、めしをずい分やはらかにたき、すり鉢にてよくすり、冷して、魚のすり身と塩を合、よく/\するべし。尤、白水にてかげんすべし。
※ 「大やう」は、大要。大体のところ。
※ 「はむ」は、鱧。
何かまぼこにも、酒をさしたるは大きに悪し。ともだしとて、はむのあらをお●し●たるも悪し。おねばは能事もあり。玉子の白みなど甚悪し。
一書、染分といふは、如常の摺身を四分斗、大板に平め付け、一あぶりして、又、鳫のすりみを、如右こしらへ置、其上に四分斗付て焼。大口に切は、赤白の染分になる。
※ 「斗」は、ばかり。
※ 「鳫」は、がん。雁。
鮒
大鮒は、片身ばかりを小串、皷付焼。小鮒は、田がく、さんせうか、たうがらしみそ。
※ 「さんせう」は、山椒。
※ 「たうがらしみそ」は、唐辛子味噌。
鮎
塩焼、漿付焼、石焼。
鰻
かばやき、皷付焼、小串。焼様、前にしるす。
鱈
塩だら、生鱈、其まゝ焼。干魚の分、皆炙て取合ものになる。
貝類
鮑、あかゞい、たいらぎ、かき、蛤、みるくい、此分、でんがく、ゑび、くるまゑび、かに、塩いり。
筆者注 ●は解読できなかった文字、□はパソコンで表示できない漢字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖