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『料理綱目調味抄』(11) 吸物の部/肴物の部

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

吸物の部

一書、汁物とかくべしと云々。

吸物は

がい、二三の汁のかろき物也。四季ともにあつく、わんの中きれいにあんばいを専にすべし。だし、皷、漿仕立て。

※ 「あつく」は、熱く。
※ 「あんばい」は、塩梅あんばい、按排、按配。

鯉 鮒

和皷。子ともに、筒切。さんせう。おろして切目の仕様、前に印す。

※ 「和皷」は、和味噌。袱紗ふくさ味噌みそ。二種の味噌を合わせた合わせ味噌のこと。
※ 「さんせう」は、山椒。

中小なるを焼て、うすみそ、山椒のめ、同わり粉。はす、はぜ、もろこの類、皆おなじ。

※ 「はす」は、肉食性の鯉の仲間(コイ科ハス属)。
※ 「もろこ」は、鯉の仲間(コイ科タモロコ属)。本諸子ほんもろこ

どぢやう

しるのごとくして、あんばい、もり方、かろくすべし。すり山椒、青さんしやう。ごりも同じ。

※ 「かろく」は、かろく。あっさりと淡泊に。
※ 「ごり」は、カジカやヨシノボリなどの淡水魚のこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

王餘魚きすご

小なるは丸ながら、中は開きほね去り、塩仕立て、かろく。梅ぼし、のり。

鳥類

汁に似る様に、取合、もり方、按排あんばいかろくすべし。大かた、だし、塩仕立なるべし。取合もの汁の部に出ん。

魚貝うをかい

右におなじ。専に用もの、しろ魚、かき、蛤、にし、さゞい、馬刀、あさり、みるくい。取合、のり、みる、花いか、ひあわび、ゑび。

※ 「さゞい」は、栄螺さざえ
※ 「みるくい」は、みる貝のことと思われます。

塩鱈

だし仕立。塩だらは胡椒。干たらはさきて、吸口 葱。

かき

一書、うぶ汁をにたて、かきを打入て、上 ●● かきを椀に入て、あつき汁をさすべし。煮過まじき為也。吸口、わさび。

豆腐

だし、塩仕立。にへたゝせ、豆腐大ざいに切、にへたてゝ、契梅ぼし、茶事の吸物度々有申也。

※ 「にへたゝせ」は、煮えたたせ。
※ 「大ざいに切」は、大ざいに切。大き目のさいころに切ること。
※ 「契梅ぼし」は、ちぎり梅干しのことと思われます。

納豆なとう

如常汁のうすき加減にして、雲雀ひばりをたゝき丸めて入たるよき吸もの也。吸口、柚。

※ 「如常」は、常の如く。

淡雪あはゆき

たまごの白みを紙にてこし、鉢に入、ちやせんにてふりたて、うすみそ、だし、塩仕立の汁たゝせて、金杓子かなしやくしにてすくい切て入、其まゝ出す。

惣て吸物は、饗應きやうはくの前中後ともに用て、其時々に順ものなれば、臨機応変りんきおうへんにて定がたし。亭主作意も次第の事なれば、大略をしるすのみ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

肴物の部

精進は蔌也。

煮物は

たこ、かまぼこのあまねき事は  のせ 之。右   謂の鯖引物の内を以すべし。又、三の巻にも肴とすべき物 品々有り。

※ 「蔌」は、青物、野菜の総称の意味。
※ 「鯖引物」は、誤読しているかもしれません。

取肴は

からすみ、めざし、木のはかれい、ほぐし物、すじ、干魚の類、するめのし。精進は、あぶり物、柚べしの類。

※ 「木のはかれい」は、がれい。メイタガレイの別名。
※ 「柚べし」は、柚餅子ゆべし

冷物は

栗、梨、りんご、橘類、ざくろ、ぶどう、いちご、くろくはゑ、大こん、はす、防風。此内、酢みそにても。

※ 「くろくはゑ」は、黒慈姑くろくわいと思われます。

後段

麪類、菓子、木み、事はん多なれば、  之。迫而可考之。

※ 「麪類」は、麺類。

一書

△五種のけづり物といふは、丸蚫、いりこ、さめのみ、するめ、はむ、此肉なき物あらば、干鯛をつかふべし。亀の甲に盛と云々。秋日、取肴の古実とみえたり。
△いせゑび、二つにおしわり、生姜酢をそへてまいらす。
△さゝいつほを打わり生なから作て、生姜酢にてまいらす。
△雉子のかしらを割て、あぶり、御肴にまいらす。御狩の時、山かげと申て上る。秋日きじの山かげと云事、此事か。
郭公ほとゝぎす、かはらけにもる。にしきをかいしきにしてもる。古実なり。如此の賞翫ものなりと云々。

※ 「五種のけづり物」は、礼式用の料理で、青・黄・赤・白・黒の五色に見立て、乾物の魚介五種を削って器に盛ったもの。
※ 「さゝいつほを打わり生なから作て」は、栄螺さざえつぼ なまながら作りて(さざえの刺身)と思われます。
※ 参考『実用家庭料理法(雉子の山かげ汁)』
※ 「かはらけ」は、土器かわらけ
※ 「かいしき」は、掻敷かいしき、皆敷。食物を器に盛るとき、下に敷くもののこと。
※ 「賞翫」は、味のよさを楽しむこと、賞味すること。しょうがん。



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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