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【観音霊験記 秩父巡礼】第十番万松山大慈寺/摂州の儒士

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼第十番万松山大慈寺 摂州の儒士

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 第十番 万松山ばんせうざん大慈寺だいじじ

 ひたすらに たのみをかけよ 大慈寺だいじでら
   六のちまたの にかはるべし

奉額
  はなの さだめはしれぬ ひさごかな   

 

攝州せつしう儒士じゆしや
當所たうしよ摂州せつしうよりきたりし儒者じゆしやすみけるが、因果いんぐわ應報おうほうをしらず。たゞ佛道ぶつだうのゝし [■は罒+言] り、そうぞくのごとくにはづかしめけるに、あるとき この本尊ほんぞん老僧らうそうとなりてかれいへにおもむき、談話だんわおよびければ、儒士じゆしや大によろこんで佛法ぶつほうをさん/\にはいし「普門品ふもんぼん羅刹らせつ鬼國きこくぶんあるが、そはいづれにあるや。これみな 偶言ぐうげんなれば、さらえきなし」とざんしければ、そう わらつていはくわが 佛教ぶつきやう深理しんり汝等なんぢらごとき腐儒ふじゆのしるところにあらず」とこたへければ、

※ 「攝州せつしう」は、摂津国せっつのくに
※ 「さん/\に」は、さんざんに。
※ 「普門品ふもんぼん」は、法華経第八巻第二五品の観世音菩薩普門品のこと。
※ 「羅刹鬼らせつき」は、人をたぶらかして血肉を食うという悪鬼。のちに仏教に入り、守護神とされたそうです。

居丈高ゐたけだかになりて、満面まんめんしゆのごとくにして鍔元つばもとをくつろげ「なんぢ無法むほう入道にふだう、さあ、らせつきこくはいづれにあるや。とくせよ。せずは虚言うそなり」と、すでにうちかゝらんとするとき、手先てさき如意によいにてたゝき給ひ「それ、なんぢとふ。らせつきこくは、すなはち  なんぢがその忿怒ふんぬのさまをいふなり」と、わらつてうせぬ。

※ 「如意によい」は、僧が読経・説法のときに持つ僧具のひとつ。

儒士じゆしやたちまち この一言いちごんにてさとり、そうはいせんとすれどもへず。これによつて、このだうかたはらいへてんじて佛道ぶつだうしんじければ、そののち灵驗れいげんかうむりたりとなり。

※ 「 灵驗れいげん」は、霊験。



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