【人相学】『武者鑑』三位中将重衡/千壽前/若葉内侍/小松三位維盛 5 mominaina 2024年3月9日 16:32 出典:国立国会図書館デジタルコレクション『武者鑑 一名人相合 南伝二』三位さんみ 中将ちうじやう 重衡しげひら重衡しげひらは、清盛きよもりの 愛子あいしにして、其その頃ころ 平家へいけの人ひとざまを 花はなに 見立みたてし時とき、牡丹ぼたんに 喩たとへられし程ほどの 才人さいじんなりしが、運うん 尽つき、時 来きたつて、鎌倉かまくらの 生捕いけどりとなり、後のちに 南都なんとへ 渡わたされ、大衆たいじゆの為ために 木津川きづがはの端はたにて 討うたれり。其その 以前いぜん、高倉たかくらの宮みや 御ご謀叛むほんの時とき、討手うつての 大将たいしやうとして南都なんとの 大伽藍だいがらんを 一片いつぺんの 煙けぶりとして、皈障きぢんの時とき、ある老翁らうおう 重衡しげひらを見みて、あら 悼いたましや、此この君きみ 佛躰ぶつたいを 焼やきし 天罰てんばつにて、死相しさう 顕あらはれたりとて、泪なみだをこぼせし者ものありしが、夫それより 世界せかい 漸々ぜん/\に 乱みだれて、一日 片時へんじ 安やすき 心こゝろもなく、茲こゝに 非業ひごうの 死しにあへるはふしぎなりし 縡ことどもなり。千壽前せんじゆのまえ千寿せんじゆは、手越てごしの長ちやうの 娘むすめにて、頼朝よりともが 侍女こしもとなりしが、重衡しげひらの 心こゝろを 慰なぐさめよと 命めいを 受うけて 行ゆきしに、重衡 心こゝろを 乱みださず、たゞ 糸竹しちく朗詠らうえいの 相手あいてのみさして、愛めで給ひしが、後のちに、重衡しげひらは 南都なんとに 失うすなはれしと聞きゝ、鬱うつの 病やまひを 引出ひきいだし、竟つひに 絶人ぜつにんして死す。彼かの 君きみが、一日の 情なさけ に 百年もゝせの 命いのちを 不惜をしまぬは、貞婦ていふの 常つねなれど、是こは 一日の 情なさけにもあづからず、一樹じゆの蔭かげ、一河いちがの 流ながれも、皆みな 他生たしやうの 縁えんなりと 観くわんぜし烈心れつしん、又、有ありがたき 女をんななり。千寿せんじゆは、重衡しげひらの 心こゝろを 引見ひきみん為ために、頼朝よりともの 撰えらまれし女なれば、その女の 利発りはつ、又また、顔かほのうつくしさ、論ろんずるに不及およばず。おして知しるべし。若葉内侍わかばのないし内侍ないしは、中御門なかみかど 新しん大納言だいなごん 成親なりちかの 娘むすめにて、幼いとけなき時とき、父ちゝにも 母はゝにも 後おくれ、孤みなしご となり給へど、桃顔とうがん 露つゆに 綻ほころび、紅粉こうふん 眼まなこに 媚こびをなし、柳髪りうはつ 風かぜに 乱みだるゝ 粧よそほひなれば、維盛これもりの 北きたの方かたとなり、男女なんによ 二人の子こを 持もち給ひしが、寿永じゆえいの乱みだれに、維盛これもりは 入水じゆすゐの由よし 聞きこへければ、母子ぼし三人 歎なげきの淵ふちに 沈しづみ給ふ。折をりから、御子おんこ六代君ぎみも、北条ほうでうの為ために 生いけ捕どられ、一旦いつたん 文覚もんがくに 助たすけられしに、後のち 又また、罰ばつせられ、姫ひめは 病やまひに 罹かゝりて 死しし給ふとぞ。殊ことに、便たよりなき 身みとなり給ひければ、一門いちもんの 為ために 尼あまとなり給ひしと言いへり。故ゆへある哉かな、如此かくのごとき の 美人びじんなれど、肩聳かたそびへ 声こゑ散さんじて、哭こくするに 似にたりし。是これ、父母ふぼ 良人おつと 子こに 縁えんうすき相さうなりといへり。※ 「桃顔とうがん」は、若く美しい女性の顔を桃の花にたとえていう言葉。※ 「柳髪りうはつ」は、女性の髪の美しさを柳の枝にたとえた言葉。小松こまつ 三位さんみ 維盛これもり維盛これもりは、重盛しげもりの 嫡男ちやくなんなり。父ちゝに似にて、其その 心こゝろ 優然ゆうぜんたり。こだひ一門の人々ひと/\、都みやこ落おちには、各北きたの方かたを 俱ぐし給しに、維盛これもりばかりは 都みやこに 止とゞめおき、後のちに、西海さいかいにて 三草みくさ山くさの 軍いくさ 破やぶれて 八島やしまへ 渡わたりおはせしが迚とても、平家へいけの 運うんも 是これ迄までなりとて、ひそかに 高野山かうやさんへ 忍しのんで 参詣さんけいなし、かの時頼ときより法師ほうしを 案内あないにて、熊野くまのへ 詣まうで給ひ、那智なちの沖おきにて 入水じゆすゐせんとあるを、時頼ときより法師ほうし、維盛これもりを相さうして、君きみ 額ひたい に 草字さうじの 大字だいじ紋もんあり、まだ 命數めいずう 竭つき給はずとて、此この 浦うらへ 入水じゆすゐと 披露ひろうして、此この 辺へんの 深山みやまに 忍しのばせおきしといへり。子孫しそん、今いまに 存そんすと 聞きけり。※ 「三草みくさ山くさ」は、ふりがなの誤りでしょうか。みくさやま。※ 「八島やしま」は、屋島のこと。※ 「命數めいずう」は、命の長さのこと。命数めいすう。『武者鑑』の人物一覧はこちら → 【人相学】『武者鑑』人物まとめ 👀筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖 ダウンロード copy #古文 #古文書 #人相 #人相学 #平維盛 #武者鑑 #平重衡 #千寿の前 #若葉の内侍 5