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【観音霊験記 秩父巡礼】第十五番母巣山蔵福寺/湯尾峠の奇談

出典:国立国会図書館デジタルコレクション
観音霊験記 秩父巡礼十五番母巣山蔵福寺 易尾峠の奇談

観音霊験記 秩父順禮ちゝぶじゆんれい 十五番 母巣ぼそう蔵福寺ざうふくじ
 みどりの はゝその森の 蔵福寺ざうふくじ
   ちゝもろともに ちかひたのもし

奉額
  おほく もつ事世話せわしき 乙鳥つばめかな

※ 「乙鳥つばめ」の乙鳥は、つばめの別名。いっちょう、おっちょう。

湯尾峠ゆむをとうげ竒談きだん
近江国おふみのくに堅田かたゞ商人あきんど越前国ゑちぜんのくにゆきて、湯尾峠ゆのをとうげとほりけるに、怪者あやしきもの余人よにんたがひに物語ものがたりするをきくに、「今年ことし江州ごうしう人種ひとだねつくさんとおもひしに、定朝じやうてうめが十一めんぞうつくりてふせぎしゆへそのことならず。これより東国とうごくにおもむかん」といへば、

※ 「十一めん」は、十一面。
※ 「定朝じやうてう」は、平安時代中期の仏師。和様と称される仏像彫刻様式を完成させた人物として知られています。

一人ひとりいふやう「もしまたその観音くわんおん東国とうごくうつさば、いかゞすべし」といへば、「そのときわが日本につぽんにはすまはれず、あないま/\しき定朝ぢやうてうかな」と私語さゝやくを、かの商人あきんどきく。「これこそ疫神えきじんならん」とおほいおそれて、くにかへりていそぎ定朝じやうてうにかくとつげければ、

※ 「私語さゝやく」は、ひそひそ話。私語ささめごと

坂本さかもとにある尊像そんぞう商人あきんどさづけて「これ東国とうごく持行もちゆきて、諸人しよにん疫難えきなんすくふべし」とあれば、いそ東国とうごくもちくだりしに、當所とうしよ佛意ぶついかなひし灵驗れいげんなるによつて、此地このち安置あんちせんことをねがへば、領主れうしゆよりにはか堂舎どうしや建立こんりうありて、疫難もまぬかれ、ながたうと灵場れいぢやうとはなれり。

※ 「灵驗れいげん」は、霊験。



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