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大腸内視鏡した日(妙齢)

笹さんが大腸内視鏡の記事を書いてらして、そういや私も書こうと思って書くの忘れてたなと思い出した。

もう、6年以上まえ。
当時のわたしは常に便秘だし、就職はしたくないし、東京来て夫と暮らせるようになったは良いものの実家との軋轢がすごいしで、今思えば鬱っぽかったなと思う。

東京に来て真っ先にわたしは、病院めぐりをした。
いわゆるドクターショッピングってやつ。とにかく体がうまくいかなくて、これさえどうにかなったら私ももうちょっとどうにかなるのにって思ってた。どうにかってなんやねん。

で、世界に誇るトキヨ(東京)ですからね。調べればなんぼでも出てくるわけですよ名医が。
いやちょっと胡散臭いなあ、この口コミほんまかなあって思いながらもね、でもネットの情報しか判断材料もないから、その名医とやらのところに行くのドンブラコと。電車で1時間もかけて。

案の定患者さんも多いわけ。
こらさぞかし良いお医者さんなんやろ思て診察受けたら、なんのことはない、説教されて大量の下剤を処方されただけ。

漢方が効くんですというこちらの主張に、「麻黄の入った薬はだめ。あんなの飲んでたら腸が真っ黒になりますよ。わかる? 真っ黒」とか言われてな。
もうぜんっぜん会話が噛み合わんの。
とにかくむかついた。むかついて悲しすぎて、薬局への道すがら泣いた。

でも名医とやらが出す処方やからな、真面目にその下剤飲んでたの。そしたら毎日、下痢。下痢下痢下痢。
これでええんやろか何なんやろか…と下痢をしながら、ちょうどそれは秋の頃だったので、近くのクリニックにインフルのワクチンを打ちに行ったればそれは消化器内科が専門の町医者だった。

近いし軽く相談でもしてみるかと診察予約をとって、再度クリニックへ。名前を呼ばれたそのときも、忌々しい下痢のせいでトイレにいた。

順番が一つ繰り下がり、いざ診察室に入ると、わっはっは系のおじさんが早口で問診してきた。早口すぎてところどころ何言ってるかわからん。そういや呼び出しの名前も早口で聞き取りにくく、患者が皆「わたし…?」みたいな自信のない顔で診察室に吸い込まれていたのだった。

わっはっはおじさんは、「なにーー?! 麻黄で腸が黒くなるぅ?? ないない、ないよそんなの。内視鏡でいつも見てるけどそんなの見たことないよ! どこの医者ぁ?」とわっはっはと鼻で笑った。

そして処方を変えてくれた。下痢は治まった。

再び診察に訪れた際、私が「過敏性腸症候群(IBS)じゃないかと思うんですが」と言うと、それは除外診断になるから腸を見ずには何も言えないというようなことを早口でまくし立てた。

ここまで来たらもうどうにでもな〜れッ☆って気分だった私は、二つ返事で「そんなら見てください」と内視鏡を希望した。そのときは、このおじさんが長くお世話になるかかりつけ医になるとは思っていなかったのだ。こんだけ悩んでいるんだからもう尻から内視鏡でもなんでも入れてもろて。



…と、投げやりに予約を取ったものの、私には懸念材料があった。もちろん、尻の穴を見られることではない。恥じらうほどの尻の穴をしていない。それよりも何よりも心配だったのは、検査までに腸の中をすっからかんにできるかどうか、だった。

だって便秘なんだぜ? 便秘で病院にかよってるのに、その検査のために便秘を解消するってこれ、本末が転倒してない?

もらった下剤は、モビプレップという、どでかい点滴袋みたいな薬だった。2リットルもの水で流し込む。これで出んかったら今日の検査キャンセルにせなあかんのやろか。

…という不安は杞憂に終わり、便意が次々と襲いくる。便秘してんだから相当な量出さなあかんやろと思っていたのに、あっという間に水便になった。お尻から水。なんだかぼくは庭の水やり用のホースになった気分。

こんなにあっという間にうんちを出し切ってしまうなんて。自分のお腹にこれだけしかうんちがないことが信じられないまま、実はうんちがどこかに残っているのではないかと、半信半疑のままにクリニックに向かった。

(ちなみに笹さんは検査食を食べたみたいなことを書かれていましたが、私は一切食べていない、というかそんなものの存在すら知りませんでした。刺激物などは摂らずに、普通の食事をしてたような気がする…)


お腹をすっからかんにして何だかフラフラしながら病院に出向くと、さっそく検査着に着替えてくださいと言われた。
荷物置きのような、小さな部屋。

ああ、嫌だ。なんで私はいま大腸内視鏡なんて受けようとしているんだろう。嫌だ。本当は嫌だよう。
気分が乗らないまま着替えをする。それでも、と私は思い直した。

それでも私は自分の腸の中を見たいのだ。長年便秘に苦しんでいるこの腸はいったい、どうなっているのか。果たして、本当にあの偉そうな名医の言うように腸壁が黒くなっているのか。宿便とかいう流行りの言葉どおり、うんちがいっぱいこびりついていたりするのか。

色んな妄想をしながら、指示されるまま検査台に横になった。当然、検査着の下はほぼ真っ裸である。こんなもん、着てないのと変わらん。まな板の上のトドですわよ。

患者にも見えるようにモニタがこちらを向いていた。はい入れますね〜の掛け声が他人事のように聞こえる。このモニタにデカデカと自分の肛門が映し出されるところから始まるのかと気をもんでいたところ、医師の華麗なる手さばきによってそのような事態は回避され、唐突にピンク色の腸壁が映し出された。

なんだよピンクじゃん。

腸の中は水分がズコーズコーと行ったり来たりしていて、それらをうまいこといなしながら内視鏡は進んでいく。

「おうふ…」
「ごめんねここちょっと苦しいよー」
そんな会話を、もしかしたら何度かしたかもしれない。けれど思った以上に痛くない。健康診断で受けた胃カメラのほうが圧倒的に辛い。

とはいえ看護師さんの手は握っていた気がする。

途中、「んー? これなんだろう」と言って先生が何かをごそごそする。「ちょっとここ気になるから組織取るねー」と言われて「えっ?? ハイ…!」と激痛を覚悟していたら、なにも感じない。モニタの中で己の腸壁がサクッと抉られた。

聞けば、腸内は痛くないんだよ〜とのこと。しらなかった。っていうか肛門から入ってるのは内視鏡だけだったはずなのに、いつの間にかクリップみたいなやつも潜入してたんだな、お前。お邪魔しますぐらい言え。

「たぶん大丈夫だけどちょっとこうなってたので、念の為組織取っといたから」
と言って、なにやら腸壁に青い液体をかける。組織を見えやすくするためか、消毒か、なんかわかんないけどマジで液体お前もいつ肛門通ってきたの。最近の検査機器はまったく高性能すぎる。


一通り腸内を見て、気になっていた壁の色は間違いなくピンクで、うんちの残りも全くなかった。うん、あとは大丈夫そうだねと言って先生も内視鏡を帰還させる。
帰り道、もうあとちょっとで出るというところで、
「あーここちょっと切れてるね」
肛門付近が切れていた。便秘で切れるのはわかるけど、下痢でも切れるのってほんとうに意地悪。

消毒かなんかをしてもらったような気がする。忘れた。もうそのころにはフラフラで、なんでお腹がすっからかんで内視鏡を通されたくらいでこんなにフラフラになるのか分からないけれど、もうとにかく私は疲れていた。

内視鏡にご退場いただき、ああ、終わった…と更衣室(とされた部屋)に駆け込む。検査着をポイ、と脱いだところで扉が開いた。
えぇ…?? 
ぼんやり相手の顔を見るわたし。
きゃあぁ! えっ? 鍵、締めてない???
慌てるスタッフさん。
え、だって、鍵閉めてとは言われなかったから…
と自分の全裸を呆然と見下ろす。見られたな。全裸。まあいいや。

それすらも大して気にならないくらいにフラフラしていた。


後日、検査に出した組織は何も問題はなかった。ようやくこれで、「腸内に見える異常はない」ということになったのだ。

私は再び過敏性腸症候群の名前を出し、それ用の薬を出してほしい、試してみるのは良いですか? と尋ねたところ「あーいいよいいよ! 試しにね! 飲んでみてもいいよ! じゃあ一回飲んでみようか!」と快諾してもらえたので、コロネルという薬を出してもらうことにした。

その薬がドンピシャで効いて、2度の妊娠出産を経た今もなお飲んでいる。基本的に、これ(と重カマ)を真面目に飲んでいる限りわたしは便秘で悩むことはない(妊娠時は除く)。

長い道のりであった。

クリニックの受付のお姉さんの中のどなたかは私の全裸を見た人だし、わっはっは先生は肛門を見ているけど、私はそんなの気にしない。むこうだって気にしてない。
いまも何かにつけお世話になっているクリニックです。


以上、およそ6年前の大腸内視鏡検査を受けた回顧録でした。
案外怖くないよ。


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坂 るいす
いつもありがとうのかたも、はじめましてのかたも、お読みいただきありがとうございます。 数多の情報の中で、大切な時間を割いて読んでくださったこと、とてもとても嬉しいです。 あなたの今日が良い日でありますように!!